平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

エリー・グリフィス『窓辺の愛書家』(創元推理文庫)

 高齢者向け共同住宅に住む90歳のペギーが死んだ。彼女は推理小説の生き字引のような人物で、“殺人コンサルタント”と名乗り、多くの作家の執筆に協力していた。死因は心臓発作だったが、ペギーの介護士ナタルカはその死に不審を抱き、刑事ハービンダーに相談しつつ、友人二人と真相を探りはじめる。しかしナタルカたちがペギーの部屋を調べていると、覆面の人物が銃を手にして入ってきて、一冊の推理小説を奪って消えた。謎の人物は誰で、なぜそんな不可解な行動を? 『見知らぬ人』の著者が贈る、本や出版界をテーマにした傑作謎解きミステリ!(粗筋紹介より引用)
 2021年発表。2022年8月、邦訳刊行。

 『見知らぬ人』が面白かったので、本作も手に取ってみた。サセックス警察犯罪捜査課部長刑事のハービンダー・カーが引き続き登場。“殺人コンサルタント”である本好きの老婦人、ペギー・スミスの死の謎を追う。介護士ナタルカ・コリスニク、ハービンダー、カフェ店主で元修道士のベネディクト、老紳士エドウィンの視点が切り替わる形で物語が進んでいく。
 人物関係の描写や性格付けは英国ミステリらしいものだし、本の話題が多いことからビブリオ・ミステリとしての側面もある。マイノリティに対する視点は現代ならではのものがある。ただ、前作ほど謎が入り組んでいるわけではなく、それでいてモタモタしていてもどかしい。素人探偵たちに振り回されてばかりで、事件の真相に迫る余裕のないハービンダーはもうちょっと何とかならなかったのか。誰と誰がくっつこうか、知ったこっちゃないと思ってしまうあたり、作品に没頭できなかったのだろうと思ってしまう。
 ちょっと肩透かしで終わったのは残念だったが、ハービンダーという登場人物は気になるので、次作にも出てくるようなら読んでみようとは思った。