平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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辻真先『戯作・誕生殺人事件』(創元推理文庫)

 東京から北関東へ移住した、ミステリ作家の牧薩次とキリコ夫妻。高齢出産を決意したキリコは、地元の中学生・美弥に住み込みで手伝いをしてもらうことに。やがて臨月間近の秋祭の日、キリコにボールペンで手書きされた生原稿が手渡される。担当の助産師の息子が書いた時代ミステリ作品らしい。それが、キリコたちに新たな事件をもたらすことになろうとは────。折しも薩次は北京に出張中、キリコは大きなお腹を抱え難事件に挑む。台風19号の来週、そして陣痛、さらに牧家を狙う怪しい影……。<ポテトとスーパー>シリーズ最終巻、待望の文庫化。
 2013年、東京創元社より単行本刊行。2024年5月、創元推理文庫化。

 作者の最初のシリーズキャラクターであるポテト(牧薩次)とスーパー(可能キリコ)のシリーズ最終巻。当時、単行本で出ていたのは知っていたのだが、買いそびれているうちにいつの間にか絶版となり、長らく入手が難しかった作品。ようやく文庫化されたので、すぐに手に取ってみる。
 途中までは何ともゆっくりとした展開。当然事件の鍵となる伏線は貼られているのだが、殺人事件が発生するのは中盤、本の半分を過ぎてから。とはいえ、ポテトとスーパーに長く付き合ってきた読者からしたら、彼らのいつものやり取り、というかそれ以上に結婚した二人、そしてお腹に子供を抱えたキリコとそれを見守るポテトを見られるだけで満足である。作者もそれをわかっているから、あえてゆるりとした内容になっているのだろう。それでも事件が起きそうな雰囲気を散りばめ、さらに作中作を準備するところはさすがである。
 殺人事件の謎そのものにはそれほど意外性があるわけではないのだが、出産間近のスーパーが挑むという点が面白い。キリコの兄である可能克郎と妻の智佐子(こちらも別作品のシリーズキャラクター)も登場し、キリコをバックアップする(克郎の場合は足を引っ張っているかもしれないが)とともに、作品自体を盛り上げる。そして最後に、やってくれました。至る所に仕掛けを用意している辻真先。最後までこんなことを考えるんですね、と思わず微笑んでしまう。「雀百まで踊り忘れず」ではないが、これがあるとやっぱり辻真先だ、と読者は思ってしまうのである。
 シリーズ最後にふさわしい作品。『仮題・中学殺人事件』『盗作・高校殺人事件』『改訂・受験殺人事件』に触れたことがある人は、やはり『本格・結婚殺人事件』と本作は手に取ってほしい。シリーズの終わり方はやはりハッピーエンドがいい。
 だけど出版社にお願いしたいのは、朝日ソノラマ文庫から出ていた『TVアニメ殺人事件』『SFドラマ殺人事件』『SLブーム殺人事件』を復刊してほしいこと。入手が難しいので、今の読者向けにここらで復刊してほしい。
 それと帯を見てびっくりしたのは、二年ぶりの完全新作『命短し恋せよ乙女(仮)』が今冬刊行予定なこと。いつまでも描き続けて、そしてチャレンジしてほしいものです。