平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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南海遊『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』(星海社FICTIONS)

「私の目を、最後まで見つめていて」
 そう告げた『道連れの魔女』リリィがヒースクリフの瞳を見ながら絶命すると、二人は1日前に戻っていた。
 母の危篤を知った没落貴族ブラッドベリ家の長男・ヒースクリフは、3年ぶりに生家・”永劫館(えいごうかん)”に急ぎ帰るが母の死に目には会えず、葬儀と遺言状の公開を取り仕切ることとなった。
 葬儀の参加者は11名。ヒースクリフ、最愛の妹、叔父、従兄弟、執事長、料理人、メイド、牧師、母の親友、名探偵、そして魔女。
 大嵐により陸の孤島(クローズド・サークル)と化した永劫館で起こる、最愛の妹の密室殺人と魔女の連続殺人。そして魔女の『死に戻り』で繰り返されるこの超連続殺人事件の謎と真犯人を、ヒースクリフは解き明かすことができるのかーー
『館』x『密室』x『タイムループ』の三重奏(トリプル)本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)
 2024年3月、書下ろし刊行。

 帯にある通りの『館』x『密室』x『タイムループ』……というよりは『嵐の山荘』x『密室』x『タイムループ』の方が合っているかな。特殊設定ミステリもので本屋で最初見たときはそれほど期待できなかったのだが、評判がよかったので手に取ってみることとした。
 帯にもあるが、魔女であるリリィジュディス・エアは3つの呪いがかかっている。リリィが死んだ時点から正確に24時間前の時点に強制的に戻る『死に戻り』・戻ることができるのは最大3日前まで。そしてリリィが死ぬ前に最後に両眼で目が合った人物を、リリィと一緒に強制的に1日前に連れていく『道連れ』。このとき、道連れになった人物も道連れ前の記憶を保有している。そして『不老不死』。リリィは100年以上生きている。
 ヒースクリフの最愛の妹、車椅子に乗る盲目の少女コーデリアが密室で殺害された。しかも頭部が切断されて。そしてリリィも殺害されるが、最後に目が合っていたヒースクリフも1日前に戻る。ヒースクリフコーデリアを降ろさせないために、そしてリリィもある目的のために事件の謎に挑戦する。
 タイムリープを繰り返しながら事件の謎を解き明かすだけか、なんて思っていたら、他にも謎がいっぱいあった。3年前に起きたヒースクリフコーデリアの父・セオドアの「自殺」の謎。3年前に説き明かせなかった謎を解くために再び現れた名探偵ジャイロ・ダイス。3年間放浪していたヒースクリフ自身の謎。色々な謎が錯綜し、読者を混迷に導く。
 読み終わってみると、何だと思ってしまう。そう、事件を解決するためのヒントは、あからさまに張られていた。しかし、描き方が自然で、全然気付かなかった。特殊設定ものに慣れている人ならわかりやすいのかもしれないが、“連続”殺人事件に結びつける技は見事。そして最後に全ての伏線が回収され、謎が解ける快感はかなりのもの。これはやられました。
 それと読んでいてうれしかったのは、ミステリマニアが書きそうな青臭い部分や自慢げなところがなかったことかな。わりと抑えた筆致で描かれており、好感が持てる。
 素直に面白かったと言える作品。ちょっと後出しジャンケン気味なところはあるが、タイムループの設定を生かし切った構成力を褒めたい。ミステリを初めて書いたとは信じられない。気が早いけれど、個人的には今年のベスト5に入れたいぐらい。ちょっと甘いかな。