平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(創元推理文庫)

 2014年カリフォルニアで解体予定の家の屋根裏から発見された貴重品箱。なかには三つのものが入っていた。1945年にウィリアム・ソーン名義で発表された低俗なパルプ・スリラー。編集者からの手紙。そして、第二次大戦中に軍が支給した便箋――ところどころ泥や血で汚れている――に書かれた、おなじ著者による未刊のハードボイルド。反日感情が高まる米国で、作家デビューを望んだ日系青年と、担当編集者のあいだに何が起きたのか? 書籍、手紙、原稿で構成される凝りに凝った物語。エドガー賞候補作。
 2015年、発表。アメリカ探偵作家クラブ賞ペーパーバック部門ノミネート。2017年2月、邦訳刊行。

 物語は三種のテキストが、それぞれが短いスパンで入れ替わって書かれている。
 一つ目は、日系アメリカ人タクミ・サトーが、軍が支給した便箋102枚に手書きした『改訂版』というタイトルが付されていた中編小説。日系アメリカ人サム・スミダが愛する妻キョウコを殺した犯人を探し求めるミステリである。
 二つ目は、サトーが小説を送ったメトロポリタン・モダン・ミステリーズ社の副編集長マクシーン・ウェイクフィールドが、上記作品を読んで感想と手直しを指示した1941年から1944年にわたる手紙。タイトルの「青鉛筆の女」は彼女のことを指している。
 三つめは、1945年2月にウィリアム・ゾーン名義で刊行されたパルプ・スパイスリラー『オーキッドと秘密工作員』の抜粋である。テコンドーの名人である朝鮮系アメリカ人の私立探偵ジミー・パークが、日本のスパイ組織に絡む連続殺人事件に挑む物語である。
 ほぼ序盤でわかることだが、一つ目の小説をマクシーンの指示で書き直したのが、三つ目の小説である。書き直した背景には、太平洋戦争当時の日系アメリカ人が受けた差別と苦悩が背景にあり、日本人や日本文化の背景なんかもよく調べられている。
 しかし私の読解力不足なのか、この作品のどこが「超絶技巧」なのか、さっぱりわからなかった。解説を読んでも、作者の真の狙いがわからない。いったい何が「驚愕の結末」なのだろう。
 そもそもの作中作がそれほど面白くないので、作品に入り込めなかったことはあるかもしれない。まあ、当時の日系アメリカ人が受けていた差別についてもう少し詳しかったら、作品の意味を知ることができたのかもしれない。多分、ミステリ的な「驚き」を求める作品ではなかったのだろう。