平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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恩田陸『ユージニア』(角川文庫)

「ねえ、あなたも最初に会った時に、犯人って分かるの?」こんな体験は初めてだが、俺は分かった。犯人はいま、俺の目の前にいる、この人物だ――。かつて街を悪夢で覆った、名家の大量毒殺事件。数十年を経て解き明かされてゆく、遺された者たちの思い。いったい誰がなぜ、無差別殺人を? 見落とされた「真実」を証言する関係者たちは、果たして真実を語っているのか? 日本推理作家協会賞受賞の傑作ミステリー!!(粗筋紹介より引用)
 『KADOKAWAミステリ』2002年8月号~2003年5月号、『本の旅人』2003年7月号~2004年9月号連載。加筆修正のうえ、2005年2月、角川書店より単行本刊行。2006年、第59回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。第133回直木賞候補作。2008年8月、文庫化。

 

 帝銀事件から約20数年後、北陸・K市の名家、青澤家で合同で行われた還暦祝い・米寿祝いで大量毒殺事件が発生。一家だけでなく、ご相伴した近所の人や子供たちなど、合計17人が亡くなった。生き残った中学一年生の長女、青澤緋紗子は盲目で何もわからない。青澤家を恨むものはなく、捜査は難航。毒入りの酒やジュースを配達した人物も見つからない。しかし事件から約3か月後となる10月の終わり、一人の男が犯行を自供する遺書を残して自殺した。若者が手紙に残した「ユージニア」という言葉の意味は。当時小学五年生で現場にいた雑賀満喜子は約10年後、この事件を題材に卒論を書き、後に『忘れられた祝祭』というタイトルでベストセラーとなる。それからさらに約20年後、一人の人物が当時の事件関係者に取材を始める。
 各章が特定の関係者の一人称、もしくは三人称で語られている。ところが名前は出てこないし、そもそも事件の概要も簡単なことしかわからないまま話は進んでいく。しかも何が真実なのかわからないし、語られている内容もぼやけたところが多い。それが結末まで進むのだから、ある意味大したもの。
 なんとも掴みどころのない話だが、不思議と目を離すことができない。読み終わっても、結局よくわからないまま。受け取り方で、各人の解釈が色々と変わってきそう。もやもやしたままだが、それでもあまり不満は感じない。そういう意味では、よくできた作品と言えるのかもしれない。
 ただ、好きになれるかどうかとなると、話は別なんだが。ちょいと苦手に感じるな。何がと言われても困るけれど。