平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

芦沢央『火のないところに煙は』(新潮社)

 「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は、事件を小説として発表することで情報を集めようとするが―。予測不可能な展開とどんでん返しの波状攻撃にあなたも必ず騙される。一気読み不可避、寝不足必至!!読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ!(BOOKデータサービスより引用)
 『小説新潮』2016年から2018年の間に掲載された5編に書下ろしを加え、2018年6月、単行本刊行。

 

 広告代理店で働く角田尚子は、恋人と一緒に神楽坂の母と呼ばれる占い師で将来を占ってもらったら不幸になると言われ、恋人が逆切れしてしまった。結局恋人と別れてしまったが、その恋人は交通事故死した。すると角田が担当したポスターだけ、必ず染みが着くようになった。「第一話 染み」。
 10年前、フリーライターの鍵和田君子のところへファンと名乗る女性から、お祓いをできる人を紹介してほしいと頼み込まれた。あまりものしつこさに辟易する君子。「第二話 お祓いを頼む女」。
 9年ほど前、塩谷崇史は埼玉県の郊外に中古の家を買った。隣に住む50代の寿子さんもよさそうな人で、妻の妊娠を最初に気付いたのも久子さんだった。ところが久子さんはある日、崇史が浮気をしていたところを見たと妻に話した。しかし崇史には全く心当たりがなかった。「第三話 妄言」(「火のないところに煙は」を改題)。
 ネイルサロンで働く智世は、一年前から夫である和典の実家で義母の静子と同居し始めた。仲は良く特に問題はなかったが、奇妙な悪夢を見るようになった。そのことを和典と静子に話すと、二人は顔色を変えた。「第四話 助けてって言ったのに」。
 千葉県内の大学に通う岩永幹夫は四月から一人暮らしを始めた。古いが良い物件だと思っていたが、大量の長い髪の毛が浴室の排水溝に詰まったり、テレビの画面が勝手に変わったり、高校生ぐらいの女の子が鏡に映ったりするようになった。不動産屋に確認すると、その部屋では特にないが、隣の部屋で四歳の娘が事故死したことがあったという。「第五話 誰かの怪異」。
 今までの短編をまとめた単行本が出版されることになり、私はネタの提供者の一人でもあり、短編の中にも登場するオカルトライターの榊桔平に書評を依頼しようとしたが、榊は「原稿を差し替えたい」と告げてきた。「第六話 禁忌」。

 

 怪談をまとめた連作短編集。一つ一つの話がよくできているとはいえ、生理的に好きになれないような話が続くのだが、最後でまさかの結末。まさかメタ的視点を持ち出し、恐怖感をさらに増幅させるとは。ただでさえ気味が悪いのに、さらに背筋に冷たい汗が流れてきて、不快感が一層増してしまった。よくできた短編集なのに、触れたくないと思わせられたのは初めてだ。
 ということで、これ以上書くと恐怖感が増すばかりなので、やめておきます。