平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』(創元推理文庫)

 男の子が住宅建設地で拾ったのは、人間の肋骨の一部だった。レイキャヴィク警察の捜査官エーレンデュルは、通報を受けて現場に駆けつける。だが、その骨はどう見ても最近埋められたものではなさそうだった。現場近くにはかつてサマーハウスがあり、付近には英米の軍のバラックもあったらしい。サマーハウス関係者のものか、それとも軍の関係か。付近の住人の証言に現れる緑のコートの女。封印されていた悲しい事件が長いときを経て明らかに。CWAゴールドダガー賞・ガラスの鍵賞をダブル受賞。世界中が戦慄し涙した、究極の北欧ミステリ登場。(粗筋紹介より引用)
 2001年、アイスランドで発表。2003年、ガラスの鍵賞受賞。2005年、CWAゴールドダガー賞受賞。2013年7月、邦訳単行本刊行。2016年7月、文庫化。

 

 北欧の巨人、アーナルデュル・インドリダソンの『湿地』に続く、エーレンデュル捜査官シリーズ第4長編。本作では、発見された何十年も昔の人間の骨の正体を探す話と、エーレンデュルの娘であるエヴァ=リンドが栄養失調かつドラッグ中毒で胎盤剥離が起きて意識不明の重体となった話、そして家庭内暴力が繰り広げられる家族の話が絡み合い、物語が進んでいく。
 ここまで古い骨の身許を警察がわざわざ追いかけるのかね、という疑問はさておき、暗い話が延々と続くのに作品に引き込まれていくというのは、筆の力って恐ろしい。本当に凄惨な話が続くのに、目を離すことができない。力作だと思う。ちょっと嫌味な言い方をすると、文学賞に選ばれやすそうな題材だなという気はした。
 とはいえ、読んでいて気分が明るくなるわけではないので、読者を選ぶだろうなとは思う。少なくとも、読書に爽快感を求めるような人には、お薦めできない。読み終わって色々考えさせられるものはあるが、それを外に出すのはためらわれる。自分の中で咀嚼していくしかないような話だった。