平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

早見和真『イノセント・デイズ』(新潮文庫)

 田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪により、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人など彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士は再審を求めて奔走するが、彼女は……筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。(粗筋紹介より引用)
 2014年8月、新潮社より単行本刊行。2015年、日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。2017年3月、文庫化。

 

 死刑囚を扱ったものなのでいつかは読みたいと思っていたのだが、今までなんとなく気が乗らなかった。時間ができたので、手に取ってみた。
 死刑囚となった田中幸乃に生まれから関わった人物を各章に配置し、幸乃がどういう人物だったかを少しずつ明らかにしていく。元恋人の妻と双子の子供を放火で殺害した罪で死刑判決が確定したというのだから非常に残酷な人間のように思えるが、過去に関わった人物たちの見る目線は異なる。死刑囚の実際が、マスコミによって植え付けられたイメージとは実際には異なる、というのは実際にも出てくる話。幸乃の体質の点、そして生まれと育ちから持ち合わせた性格の点は本作品ならではの部分なのかもしれないが、これだって強者に従順で損をする犯罪者というのがよくある話なので、それほど惹かれるものはなかった。結末に向かって徐々に明らかになっていく事件の真相についてもよくあるパターンだと思った。
 リーダビリティはあると思ったが、新味は感じられなかった。まあ、人って自分のこと以外については身勝手なんだな、と自分の反省も振り返りつつ思った次第。それだけかな。