平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東野圭吾『赤い指』(講談社)

 金曜日の夜、会社から帰ろうとした前原昭夫の携帯電話が鳴った。出てみると、うろたえた声の妻の八重子。とにかく家に帰ってきてほしいというのだが、痴呆症の老母の介護をしてくれている妹の春美には来てほしくないという。帰った昭雄は八重子に言われるがまま庭を見てみると、そこには知らない女の子の死体があった。中学三年生の息子である直巳が殺害したのだった。警察に電話しようとする昭夫だったが、過保護な八重子は直巳の将来を考えて何とかしてほしいと訴える。しかたなく自転車で近くの公園の公衆便所に遺棄した直巳だったが、警察の手は徐々に近づいていった。
 『小説現代』1999年12月号に掲載された「赤い指」をもとに書き下ろされ、2006年7月刊行。

 

 東野圭吾直木賞受賞後第一作。加賀恭一郎シリーズではあるが、今までスルーしていたのでこの機会にと思って本棚から手に取ってみた。
 二つの物語が並行で進行する。一つは殺人事件を起こした息子に苦悩しながら対処する前原一家の話であり、もう一つは練馬署の刑事である加賀恭一郎の父親である隆正が癌で入院しており、甥である警視庁の松宮脩平は隆正を見舞いに行くとともに、癌に侵されて手術も不可能な状態なのに見舞いに来ない恭一郎に怒りを見せている。
 親子の関係をキーワードにしつつ、刑事側と犯人側で物語が進行。所々で見えない感情をオーバーラップさせながら事件を解決させていくストーリーの組み立てがうまい。テクニックが先立っているような気もするが、作者に翻弄されるのは仕方がないか。ちょっとした疑問点と注意力で、家族の嘘を見抜いていく加賀恭一郎はさすがというしかない。
 それでもなあ、どこか作り物めいている印象が強いのは、最近の東野圭吾からくる悪感情からという気がしなくもない。読みやすいのは事実だが。