平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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斜線堂有紀『廃遊園地の殺人』(実業之日本社)

 プレオープン中に起きた銃乱射事件のため閉園に追い込まれたテーマパーク・イリュジオンランド。廃墟コレクターの資産家・十嶋庵はかつての夢の国を二十年ぶりに解き放つ。狭き門をくぐり抜け、廃遊園地へと招かれた廃墟マニアのコンビニ店員・眞上永太郎を待っていたのは、『このイリュジオンランドは、宝を見つけたものに譲る』という十嶋からの伝言だった。それぞれに因縁を抱えた招待客たちは宝探しをはじめるが、翌朝串刺しになった血まみれの着ぐるみが見つかる。止まらない殺人、見つからない犯人、最後に真実を見つけ出すのは……(帯より引用)
 2021年9月、書下ろし刊行。

 

 『楽園とは探偵の不在なり』が変梃りんな設定だったので本作でも何かあるかと思ったら、20年前にプレオープンで廃墟となった遊園地での連続殺人で、現実では有り得ないような設定は特にない。もっとも、『月刊廃墟』という雑誌、どれだけ続けられるネタがあるんだろう、なんて思ってしまった。
 招待客9人+スタッフ1人が何らかの思惑で集められ、宝探しを始める。自分だったら怖くて来ないよなと思ってしまったりもするのだが、まあそれはいい。探偵役で廃墟マニアのフリーター、眞上永太郎がコンビニのアルバイトで養った観察眼を生かす展開は面白い。殺人事件が起きるまで結構長いのだが、それなりに楽しんで読むことができた。ところが殺人事件が起きてからが、なんですかそれ、という展開が多いので、興醒めしてしまった。
 第1の殺人事件は、鉄柵に着ぐるみ姿の被害者が外界と隔てられた12mの鉄柵に突き刺さり、地面まで串刺しになっているという状態。そもそも12mの高さの鉄柵って高すぎだろと思うし、横ビームのない柵なんて聞いたことがない。風が吹いたら揺れて大変だろうな……。それとネタばれじゃないだろうから書くけれど、観覧車のゴンドラが人が一人乗った程度で下がるわけがない。20年も野ざらしになっていたのだから錆びているだろうし、だいたい普通はブレーキをかけたままだろう。
 事件の検証のところでジェットコースターを手で動かすところがあるけれど、いくら小さいといっても四人乗りが五台も並んだら何百キロもあるでしょう。20年も野ざらしになっているのに錆びもせず軽く動くというのも有り得ないし、動かないようにブレーキぐらいつけていると思うのだが、そこは無視しても、傾斜をコースターで押せるはずがない。水平だったら1tでも動かせるよ、摩擦さえなければ。自分でもレール上の1tの台車を手で押したこともあるし。だけど傾斜を上げようとすると、コースター自体の重力がかかってくるんだよ。ましてやコースターなんだからそれなりの傾斜もあるし。
 過去の殺人事件だって、まず無理だろう。だいたいあれを回収できるとも思えないし、遠くと近くの区別ぐらい鑑識でわかると思うけれどね。リゾート施設を誘致することで、ここまで村内が対立するというのも信じられない。ダムで村が水底に沈むとか、産廃施設を作るとかなら話がわかるけれどね。リゾート施設誘致反対という反対運動は見たことがないけれど、これは私が世間知らずなだけかもしれない。登場人物の行動や動機にも首をひねるものが多い。殺人の動機はとくに納得がいかないな。いくらでも回避する方法はありそうだが。大体そんな状況、工事中ではならかった(杭とか打つんだよ)のだから、工事後でなる確率はかなり低い。
 読めば読むほどおかしな点が出てくるばかりで、せっかくのトリックや謎解きが全然面白くなかった。この探偵役の設定は面白かったから、いっそのこと、廃墟探偵とかいってシリーズ化してくれないかな。