平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ウィリアム・サファイア『大統領失明す』上下(文春文庫)

  失明した大統領に大統領職はつとまるのか? テロにより失明した第41代大統領エリクソンは、アメリカ政治史上例のない難問に直面させられた。不屈の闘志で留任を主張するエリクソンに、宿敵バナーマン財務長官は憲法修正第25条をかざして激しく退陣をせまる。ピュリッツァー賞受賞のコラムニストが描く迫真と感動の政治小説。(上巻粗筋紹介より引用)
 憲法修正第25条によれば不能となった大統領は引退しなければならない。が、失明は不能といえるのか? 両派の全力を傾倒した主張と工作が、閣議、議会に向けて続けられた――。当代一の人気政治記者サファイアが、持てる材料のすべてをつぎこんで、大統領と周辺の人々の愛と正義と欲望に揺れる姿を描いた一時代を画す傑作。(下巻粗筋紹介より引用)
 1977年、発表。1985年4月、邦訳、文春文庫で刊行。

 

 作者はニューヨーク・タイムズのオプ・エド(社説面の対向)ページにコラムを書き続けてる人気ジャーナリスト。ニクソン大統領時代は大統領草稿係秘書として演説原稿を書いていたとのこと。そのときの経験が本作品を書かせたのだろう。
 アメリカのエリクソン大統領と、ソ連のコルコフ書記長との頂上会談がソ連で行われていた。9日間の訪ソ日程の7日目、二人が同乗していたヘリがテロに襲われ、コルコフは死亡、そしてエリクソンは失明する。そして失明した大統領は、大統領として正しい判断を行うことができるのか。失明は、憲法修正第25条に書かれた「不能」にあたるのか。エリクソン側と政敵バナーマン側の激しい戦いが繰り広げられる。
 冒頭からの緊迫感のある魅力的な展開。そしてアメリカならではの政治劇。ホワイトハウスの知られざる内側(アメリカ人から見たら知られている内容なのかもしれないが)が面白いし、大統領やその後のポストをめぐる駆け引きも面白い。不測の事態を通し、表面に出てくる欲望と策謀が何ともリアル。憲法修正第25条をめぐるやり取りは、言葉という刀で切り合いをしているようである。追い詰める者と、追い詰められて反撃する者の、大統領という地位と権力を巡っての殴り合いに、愛情や友情、信頼などが絡み合うところが実にいい。手に汗握る政治ドラマとは、こういうものなのだろう。
 読み終わってどことなくからっとしているのは、アメリカならではのお国柄なのかな。日本だったらもっと陰陰滅滅な展開になりそうだ。
 実際の第41代大統領はジョージ・H・W・ブッシュ。本作品出版より12年後に就任している。