平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ロバート・ゴダード『蒼穹のかなたへ』上下(文春文庫)

 讒言で会社を追われ、元の部下で現国防次官ダイサートの世話でロードス島の別荘番として酒と倦怠の日々を送る中年男ハリーの前に現れたのは清楚な娘ヘザー。ギリシャの風に吹かれる夢のような毎日。だがヘザーの突然の失踪。なぜなのだ? 苦しい疑問を解くべく祖国イギリスに立ち帰ったハリーを待ち受けていた大いなる陰謀。(上巻粗筋紹介より引用)
 ギリシャロードス島山頂付近で姿を消した娘ヘザーの謎を解くべくイギリスへ戻ったハリーの前に立ちはだかる疑惑の壁。だが、戦友にだまされ、上司の息子の讒言で会社を追われ、酒に溺れる冴えない中年男にも骨はあった。次第に明らかになる大いなる陰謀とは? 人の善意の恐さを語って尽きない鬼才が展開するゴシック・ロマン。(下巻粗筋紹介より引用)
 1990年、イギリスで発表。1997年8月、邦訳刊行。

 

 久方ぶりのゴダードの傑作をダンボールの奥底から取り出す。もう20年以上前になるので、毎度のことながら、いつなぜ買ったのかの記憶すらない。
 9年前から英国の下院議員の別荘の管理人としてギリシャに住む53歳、独身のハリー・バーネットの元へ、27歳のヘザー・マレンダーが現れる。ハリーはかつて、ヘザーの父と友人で、一緒に働いていた。数日後、ドライブの途中でヘザーが失踪した。警察はハリーを疑うも、証拠がなく放免される。ハリーは疑問を解くため、イギリスに戻る。
 まあ、ここまではいいんだけど、こんな冴えない中年男に色々と話すかね……。訪問した瞬間に追い出されるとしか思えないのだが。それは冗談として、上巻はひたすらハリーが動き回るだけで、会話や説明がくどく、なんとももどかしい。まあこれぐらい長い方が、背景の複雑さを現している感があるのも事実だが。絡まっている人間関係が、ハリーの行動で少しずつほどけていくうちに、大きな陰謀が明らかになってくる。この辺りの見せ方は、さすがゴダードと言わせる巧さである。
 ただね、似たような中年男の私としては、ハリーにあまり共感しないんだよな(別に飲んだくれているわけではないけれど)。なんかみじめさについては鏡で見ているようだし、ハリーほどの行動力と意地はないので絶望感を感じるし。主人公に感情移入できなかった分、ちょっと冗長に感じたな。まあ、単純に私的な理由でだけど。
 ゴダードのうまさを十分発揮した作品だとは思う。ごめん、自分勝手な部分でちょっと楽しめなかった。