平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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塩田武士『罪の声』(講談社)

罪の声

罪の声

 

  京都でテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われた録音テープの音声とまったく同じものだった―。(「BOOKデータサービス」より引用)
 『小説現代』電子版2015年10月号~2016年1月号に連載された『最果ての碑』を大幅に加筆修正し、2016年8月、単行本刊行。第7回山田風太郎賞受賞。

 

 実際に起きて未解決のまま時効となった「グリコ・森永事件」を題材とした「ギン萬事件」で31年前に知らないまま脅迫の声に使われた男と、当時の真相を追う新聞記者の物語。
 大日新聞文化部の記者である阿久津栄士が31年前の事件を追うのだが、最初こそ失敗しつつ(実際は関連していたのだが)、結局は事件の謎に順調に迫っていく展開が、あまりにも都合よすぎ。本文中でも「幸運に恵まれている」などと書かれているが、そんな言葉で済まないほどのラッキーさにげんなりとさせられる。しかもその序盤の部分があまりにもまどろっこしすぎて、退屈だった。途中からは多少テンポよく読むことができたが。
 当時の脅迫電話の声に使われた曾根俊也の苦悩はよく書けていたと思う。とはいえ、作り過ぎの印象しかない。
 結局、作者の都合に合わせて書かれた実在事件の「ある真相」でしかなく、作品世界にのれなかった。よく調べているとは思ったが、もう少し現実の事件と離れた事件にした方がよかったと思う。作者の意図と離れてしまうけれど。