平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

宮部みゆき『ペテロの葬列』(集英社)

ペテロの葬列

ペテロの葬列

今多コンツェルン会長室直属・グループ広報室に勤める杉村三郎はある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。事件は3時間ほどであっけなく解決したかに見えたのだが――。しかし、そこからが本当の謎の始まりだった! 事件の真の動機の裏側には、日本という国、そして人間の本質に潜む闇が隠されていた! あの杉村三郎が巻き込まれる最凶最悪の事件!? 息もつけない緊迫感の中、物語は二転三転、そして驚愕のラストへ!(帯より引用)

千葉日報』など22紙に2010年9月12日〜2013年10月3日の期間、順次掲載。加筆修正のうえ、2013年12月、単行本刊行。



『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ長編3作目。老人がバスジャックし、3人の人物を連れてくるように要求するも、警察の突入と拳銃の暴発で犯人が死亡し、3時間で事件は解決。ところが事件後、老人から迷惑料が贈られてきたため、受け取るべきかどうか、杉村達元人質たちは悩む。

何とも長い作品。場面の転換や話の切り替えがうまいので厚さはそれほど感じないが、それでも読んでいて重くなってくる。肉体的にも、精神的にも。

バスジャックをめぐる背景については、ああ、日本人って(自分も含めて)こうだよな、と思わせるもの。もちろん日本人だけには限らないが、この手の話は日本が一番多いような気がする。別に海外の事例を確認せず、報道量だけで判断したものだから、全然違うかもしれないけれど。世の中、こんなにうまくいく話があるわけでもないのに、なぜ騙されるのだろうと思ってしまうのだが、そこがコントロールなんだろうなあ。

問題は杉村の家のこと。多分最初からこの流れを想定してシリーズを書いていたのだろうけれど、こればっかりはやってほしくなかったな。むしろこのシリーズでやってしまってはいけなかったと思う。それが多くの読者の本音ではないだろうか。

なぜハッピーエンドで終わらないのだろう。そう、疑問を持ってしまうことが時々ある。それが次につながる話だとしても。宮部みゆきで時々首をひねるのはそういう点だが、それがまた現実を突き付けているようで、やりきれない。