平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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井上真偽『恋と禁忌の述語論理』(講談社ノベルス)

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

真実は、演算できる。

大学生の詠彦は、天才数理論理学者の叔母、硯さんを訪ねる。独身でアラサー美女の彼女に、名探偵が解決したはずの、殺人事件の真相を証明してもらうために。詠彦が次々と持ち込む事件――「手料理は殺意か祝福か?」「『幽霊の証明』で絞殺犯を特定できるか?」「双子の『どちらが』殺したのか?」――と、個性豊かすぎる名探偵たち。すべての人間の思索活動の頂点に立つ、という数理論理学で、硯さんはすべての謎を、証明できるのか!?(粗筋紹介より引用)

「レッスンI スターアニスと命題論理」「レッスンII クロスノットと述語論理」「レッスンIII トリプレッツと様相論理」「進級試験 「恋と禁忌の……?」を収録。

2014年、第51回メフィスト賞受賞。2015年1月、講談社ノベルスより刊行。



名探偵が解決したはずの事件を、別の登場人物がもう一度解き明かすという設定。他人の推理を真の名探偵が訂正するというのはよくある話だが、話毎に違う名探偵が登場するというのは珍しい。数理論理学で事件の真相を見破るというのは、最近の本格ミステリではありがちな別理論から真の解を導き出すという設定に則っているものの、色付けとしては悪くないだろう。

ただ、物理系の大学出身なんだが、数理論理学なんて読まされてもちっとも面白くないんだよね。せめて『Q.E.D.』ぐらい咀嚼して手短に話してくれればいいのだが、残念ながらそこまでの域には達していなかった。

逆に、各話に出てくる名探偵の設定が笑える。幼馴染みの姉で「花占い推理」をする美人の花屋探偵。大学の剣道サークルの先輩で、相談を受けては事件に巻き込まれる、主人公を助手にしたがる天才経営戦略コンサルタント女性。借金癖があり、女性にモテ、あらゆる可能性を考え、奇跡を探し続ける探偵。どれ一つとっても、一冊のミステリができそうだ。いや、実際に三番目の探偵は次作以降の主人公探偵となっている。ある意味勿体ない使い方をしていると言えそうだ。

推理の部分よりも、主人公を巡る人間関係の方が面白かったな。まあ、なぜか異様にモテているように見える(本人に自覚は無いようだが)主人公にやきもきする年上の女性という設定は何とも言えないおかしさがある。オチは見え見えだったが、結構面白く読めた。これがデビュー作なら、十分合格点だろう。