平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』(原書房 ミステリー・リーグ)

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

ミステリー・アリーナ (ミステリー・リーグ)

ミステリー研究会のOB、OGが今年も年次会と称して鞠子の別荘に集まる。しかし大雨で川の橋が冠水し、通ることができなくなった。そんな閉ざされた陸の孤島の別荘で、鞠子がナイフで刺されて死んでいるのが発見される。当然犯人は集まったメンバーの中に。

これは実は、大晦日夜恒例の大型番組、「推理闘技場(ミステリー・アリーナ)」の今年の問題である。キャリーオーバーされた賞金はついに20億円。ミステリーヲタクたちによる早押しバトル、犯人は誰か。

2015年6月、書き下ろし刊行。



うーん、これは何というべきか。「多重解決の極北!」と紹介文にあるとおり、多くの推理が披露される。しかも早押し形式にしたことから、ボタンを押した回答者がどんどん"答え"を述べていく。まあ、よくぞこんな形式の作品を考えたものだ。その努力には恐れ入る。

ただ、読者からしたらほんの残りページ数から、回答が誤りであることがあっさりとわかってしまうし、問題文が続くこともわかってしまう。そこが小説中の回答者との乖離に繋がっている。第一正解者総取りだから、思いついた時点ですぐにボタンを押してしまうという設定もわかるのだが、背景となるルールがルールなので、首をひねってしまうところでもある。

とまあ、実際の人間心理などを考慮する必要は無い。要するにこの作品は、叙述トリックと多重推理物を徹底的におちょくった作品だからだ。作者にその意図があったかどうかは別として。途中でそういうものだと理解して読み進めると、ギャグとして最後のオチまで十分に楽しめる。物語の序盤から推理を披露するのも、わかったふりをするミステリーヲタクをデフォルメしているようなもの。司会者のふざけた煽りも、読者をそういう意識へ導こうとするテクニックだろう。作者にそんな意図があったかどうかはともかく。

要するに、本格ミステリではなく、本格ミステリを題材にしたギャグ。そう思えば間違いない作品。ここまで辻褄を合わせて組み立てるのには苦労しただろうな。ダイイング・メッセージの長いSとか、とろろめしの下りなんかは結構感心した。こういうのが含まれているから、まだ読むことができたと思う。

気になったのだが、問題側の登場人物って何歳の設定なんだ? 解決があまりにも予想外だったので。

どうでもいいけれど、読んでいる途中で相馬康幸「迷路」を思い出したのは、私だけ? 意味合いは正反対だろうが。