- 作者: 三沢陽一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/10/25
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (10件) を見る
15年後、雪の降る夜。花帆と夫の営む喫茶店を訪れたのは、卒業以来、音信不通の龍太だった。あと数時間で時効を迎える弥生の事件は、未解決のまま花帆たちの人生に拭いきれない影を落としていた。だが、龍太はおもむろに告げる。「弥生を殺したのは俺だよ」
たび重なる推理とどんでん返しの果てに明かされる驚愕の真相とは? 第3回アガサ・クリスティー賞に輝く正統派本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)
2013年、第3回アガサ・クリスティー賞受賞。応募時タイトル『コンダクターを撃て』。大幅に加筆修正の上、2013年10月、刊行。
15年ぶりに現れた音信不通の友人が、当時の事件の真相を告白するという話。いわゆる「雪の山荘」ものだが、毒殺というのが何とも地味。逆に言うと、「誰が、いつ、どうやって毒を入れたのか」という謎を論理的に解き明かすことができる楽しみがあるわけで、そこに至るまでをどう書くかに興味があった。しかし読み終わってみると、その期待は大きく裏切られたと言っていい。
まずはトリック。正直言ってタイトルがネタバレに近いと思うのだが、それを抜きにしても、後遺症や何らかの兆候が見られないというのは不自然。さらにいえば、これだけ証拠を残していれば、殺人未遂で引っ張られてもおかしくないと思う人物を警察が見逃している点が不思議。
続いて登場人物と舞台。これがまた、作ったかのような設定。そもそも、これだけ複数の人物から恨まれている弥生が、狭い空間の大学で噂になっていないはずがない。そんな人物と、普段から行動を共にする人物がいるという点も疑問だ。
そしてストーリー。時効が完成する15年ぶりに当時の関係者が現れて告白するというのはありだろうが、単なる脇役かと思った人物(こう書くと誰だかわかっちゃうのだが)がいきなり事件の謎を解き明かし、しかも黒幕(いわゆるコンダクター)まで推理するというのは都合よすぎる。しかもこの時点で解き明かすという点がおかしい。今まで一体何をやっていたんだ、お前は、と言いたいぐらい。過剰などんでん返しが、読者をかえってしらけさせている。結末の付け方も、誰もが狂言廻しで終わってしまうというのは首をひねってしまう。15年も悩んでこれが結末じゃ、事件関係者も浮かび上がらない。まあ、これが罪と言えば罪なのかもしれないけれど。ついでに文章は装飾過多というか、大げさな表現が目立つし、無駄も多い。それでも多少は読める文章であることは救い。
選考を読んでも、かなり苦しい評が目立つ。アドバイスを受け、大幅に書き直した結果がこれでは、元の原稿は相当ひどかったのだろう。鴻巣友季子なんか、「実は最初の総合点は僅差ながら受賞作が最も低かった」なんて書いているし。受賞後、「大幅に」加筆修正、なんて初めて見た。
うーん、褒めようにも褒めるところが思いつかない作品。言い方悪いけれど、こんな作品に“アガサ・クリスティー”の冠をかぶせた賞を与えていいのかい、と言いたいぐらい。