平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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エリザベス・フェラーズ『私が見たと蝿は言う』(ハヤカワ・ポケットミステリ)

私が見たと蝿は言う (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 217)

私が見たと蝿は言う (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 217)

ロンドンはリツル・カーベリイ街の下宿屋「十号館」から、フランスへ行くといって去っていった作家志望の少女ナオミ・スミス――そのナオミが、郊外のハンブステッド・ヒースで、顔じゅうに傷を負った見るも無残な他殺死体となって発見された。そして、彼女が住んでいた「十号館」の部屋の床下からは、塵はたきに包まれた凶器と思われるピストルが見つかった。

 かくして「十号館」の住人は、ひとり残らず容疑者になってしまった。その住人とは、新進女流画家のケイ、ナオミのいた部屋に引っ越してきた娘パメラ、ジャーナリストのテッド、その愛人メリッサ、建築家チャーリー、いかがわしい商売に部屋を貸しているフラワー夫人、強欲な家主リンガード、不気味な管理人トヴィ。彼らは口口に、「犯人を知っている」と言いだした。ケイと別居中の夫パトリックは妻を疑い、テッドは家主を、チャーリーはパメラを……という具合に。

私が見たと蠅は言う――マザー・グースの童謡のようにこの中には事件について何かを知る“蠅”がいる。そして真犯人も……? その蠅は、そして犯人は誰か?

下町の安下宿を舞台に、そこに生活する様々な人間を生き生きと描きながら、物語は息づまるサスペンスに充ちたクライマックスへ……心理描写に長けた独特の作風で知られる英ミステリ界のベテラン女流作家の代表作!(粗筋紹介より引用)

1945年、発表。1955年、翻訳刊行。



英国ミステリ界の重鎮、エリザベス・フェラーズの代表作……と言われている。フェラーズが最初に邦訳された作品でもあるが、本作が心理サスペンスであったため、作者の評価が今一つだったような気がする。個人的にはフェラーズの初期本格ミステリの方が面白いと感じたので、本作が代表作と呼ばれているのは、読み終わってみて少々疑問だった。

拳銃が見つかったら、実は前の住人を殺害した凶器だったという展開。そこから先は、コリイ警部を含む住人同士のやり取りが続くのだが、読んでいてそれほど緊迫感が無く、なんとなくダラダラした展開が続くので、今一つ作品に没頭することができなかった。感情に任せた発言が続くので、誰が犯人なのかを推理することもできない。

結末まで読むと、作者のやりたかったことが見えてくるのだが、そこまで我慢して読むことができるかどうか。やっぱり英国ミステリにはユーモアがないと、退屈するのだろうか、と英国本格ミステリのユーモアが好きでもないのに、こんなことを考えてしまった。

ちなみにタイトルは、マザー・グースの「コックロビン」の一節。タイトルが作品にちゃんと意味をもってくるところは、流石と言える。

フェラーズは本国での作品数のわりに、『猿来たりなば』が紹介されるまではほとんど紹介されず、邦訳はごくわずかだった。それもこれも全て、本作が日本の読者に受けなかったからに違いない。そういう意味では、罪作りな作品だったようだ。