- 作者: 加藤廣
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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なぜ信長の遺骸はいつまでたっても見つからないのか。光秀はなぜ戦勝祈願の連歌を詠んだのか。秀吉の「中国大返し」はなぜ可能だったのか。丹波を訪れた太田牛一は、謎の美女、多志に導かれ阿弥陀寺、本能寺、丹波を結ぶ“闇物語”のとば口へと足を踏み入れる。驚天動地の歴史ミステリーいよいよクライマックスへ。(下巻粗筋より引用)
2005年5月、日本経済新聞社より書き下ろし刊行。2008年9月、文庫化。
作者は1930年生まれなので、出版時は75歳。金融、証券界、ベンチャー企業育成などに携わり、ビジネス書の執筆は多数だが、小説は本書が処女作。小泉純一郎が愛読書として挙げたことからベストセラーになった……らしいが、全然記憶にない。
本能寺の変という日本史でも有名な謎のひとつに取り組んだ作品。『信長公記』の著者として有名な太田牛一が主人公というのは、なかなか斬新的なアイディア。なるほど、秀吉の時代になっても信長にこだわる人物といったら、一族を除いたらこの人を置いて他にはいない。
信長はなぜわずかな供しか連れていなかったのか。光秀はなぜ謀反をしたのか。信長の遺体はなぜ見つからなかったのか。秀吉はなぜ中国大返しを成功させることができたのか。特に信長の遺体が見つからなかった所に重点を置き、そこから物語を組み立てていったのは見事としか言いようがない。
主人公の太田牛一が成り上がり者の秀吉に反感を抱くところ、謎の美女に導かれて真相に近づくところも読んでいて面白い。また信長贔屓の太田牛一に対し、別の視点から見ると歴史がガラッと変わることを教えられるところは、歴史というものの多面性を示すものである。
もちろん歴史上の謎だから、よほどの新しい証拠がない限り、あくまでフィクションでしかない。それでももしかしたらこれが真実ではないか、と読者に思わせることができれば、作者としては大満足であろう。そして本書は、こういう視点もあったのかと思わせる、楽しい一冊であった。なるほど、歴史ミステリの傑作と言って間違いない。