平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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宮ノ川顕『化身』(角川書店)

化身

化身

まさかこんなことになるとは思わなかった――。一週間の休暇を南の島で過ごそうと旅に出た男は、軽い気持ちで密林へと分け入り、池に落ちて出られなくなってしまう。耐え難い空腹と絶望感、死の恐怖と闘いながら、なんとかして生き延びようとする彼は、食料を採ることを覚え、酒を醸造することを覚え、やがて身体が変化し始め、そして……。端正な文体で完璧な世界を生みだした、日本ホラー小説大賞史上最高の奇跡「化身」に、書き下ろし「雷魚」「幸せという名のインコ」を収録。(粗筋紹介より引用)

2009年、「化身」で第16回日本ホラー小説大賞受賞。応募時タイトル「ヤゴ」。2作を書き下ろし、2009年10月、単行本発売。



受賞作「化身」は、いわゆる変態ものファンタジー。ホラーではないが、もうその辺はあまり考慮しない方がいいのだろう。密林の池に落ちて外に出られなくなった男が、環境に合わせて徐々に変態していく姿は、実に面白い。カフカ『変身』とは全く別の面白さだ。手塚治虫『メタモルフォーゼ』の一編だと言われても全く違和感がない。こんなストーリー、よく考え出したものだと感心。徐々に変態するだけでなく、その後もあるところが秀逸。オチの弱さが若干残念だが、それは些細なキズだろう。これは傑作だと思った。

残念ながら、残り2編はつまらない。「雷魚」は、釣り好きの少年が池で偶然見かけた雷魚を釣ろうとしていると、女性が現れる話。小学生らしい視点はわかるのだが、結末までのストーリーは平凡かつ平坦で盛り上がりに欠ける。「幸せという名のインコ」は、個人デザイナーの夫が娘にねだられてインコを買い、ハッピーと名付けるが、夜中にいつもと違う声で予言をするという話。これも平凡すぎて、読後感も悪い。

結局「化身」だけの一発屋で終わりなのだろうか。時間があればもう少し変わった作品が書けるのかもしれない。