平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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彩坂美月『ひぐらしふる』(幻冬舎)

ひぐらしふる

ひぐらしふる

祖母が亡くなり、地元のY県天堂市に帰省した24歳の有馬千夏。幼馴染の相葉成瀬、芥川利緒と再会して話すうちに、高校時代に女子生徒のスカートが立て続けに切られた事件を思い出す。「第一章 ミツメル」。

お祭りの夜、久しぶりに会った一つ上の先輩、遠藤ハルと塔野みかげ。ハルが結婚するという話で盛り上がるが、みかげは婚約指輪を見つめ、いきなり賭けをしようと言いだす。ハルの婚約者が好きだったというみかげの条件は、私が勝ったら別れてほしいということだった。「第二章 素敵な休日」。

携帯電話で恋人の高村午後と話をする千夏。そのうちに、高村の友人草下が天堂高原でアルバイト中、観光ツアーで来ていた親子連れがミステリースポットとして有名な霊験で消えてしまった。「第三章 さかさま世界」。

利緒が千夏のところへ連れてきたのは、高校時代の友人、式部恵瑠。ともに本好きで、高校時代は貸し借りをしていた。そんな恵瑠が話し出したのは、小学校時代に一番仲が良かった友人と、当時流行っていた探偵団の真似をしてUFOが来る山へ調査に来たが、その友人が突然消えたという話であった。恵瑠は、その友人がUFOに攫われたと信じていた。「第四章 ボーイズ・ライフ」。

天堂市最後の花火の夜、成瀬や利緒と一緒に花火を見に来た千夏。ところが利緒が、駐車場で男の人と口論の上、攫われた。千夏の携帯電話にかかってきたのは、警察に知らせたら殺すという男の声。男は千夏に居場所にヒントを出した。「最終章 八月に赤」。

それに「プロローグ」「エピローグ」が付く。

2008年、第18回鮎川哲也賞最終候補作。応募時名義結城未里。2011年6月、幻冬舎より単行本刊行。



2009年、第7回富士見ヤングミステリー大賞準入選作『未成年儀式』でデビューした作者の二作目。最も実際に書かれたのはデビュー作より前、という話になる。単行本には、鮎川賞最終候補作だったことは一切書かれていない。そのため、どれだけ手を加えたかは不明である。

将来に不安を持ちながらも帰省した有馬千夏を主人公とした連作短編集。舞台はY県天堂市とあるが、いうまでもなく作者の出身地である山形県天童市がモデル。いわゆる「日常の謎」もので、表紙のイラストからもほのぼのとした作風を予感させるのだが、内容はちょっとばかり重い。

小説の方は、はっきり言って読みにくい。説明不足なのは何らかの仕掛けのせいかなと思っていたら、その通りだったのにはちょっとだけ笑った。ただ、それでももっと書きようがあったとは思う。曖昧な部分を曖昧なまま露骨に終わらせたら、最後に仕掛けがありますよと言っているのが見え見え。章毎の謎の解明も、推理らしい推理が無いまま繰りひろげられるので興醒め。

読み終わってみたら、つまらなかったの一言で終わってしまうような作品だった。どうせならもっとライト系に寄ればよかったのにと思う文体は、読んでいてもギャップ感があってきつい。所々は悪くないのだが、それが続かなかったのは残念。一度じっくり、登場人物と向き合った作品を書くべきだと思う。