- 作者: 佐藤究
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/08/09
- メディア: 単行本
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母親、
兄、
父、
その日、父は早く家に帰ってきていた。学校から帰ってきた亜李亜は部屋に戻ると、いつも締め切られている兄の部屋が細く開いていて、中から血が流れていることに気付く。部屋を除くと、パン切り包丁で滅多裂きにされた兄の死体があった。亜李亜は一階に戻り、父を呼んで兄の部屋に行ったが、兄の死体は無かった。しかも廊下にこぼれていた地もきれいにふき取られていた。父は落ち着いたまま。母は部屋にいた。どの部屋にも兄の死体はない。ルミノール反応にも引っかからない。次の日の夜、学校から帰ってくると、母が消えていた。しかし、父は落ち着いている。そして父は言う、何も知らないと。そして「おまえならいずれみんなわかるだろう」と告げた。
2016年、第62回江戸川乱歩賞受賞作。応募時名義犬胤究。加筆修正のうえ、2016年8月、刊行。
作者、佐藤
家族全員がシリアルキラーという現実的ではない、異様な設定。兄が殺害され、死体が消え、母が失踪。これはもしかしてとんでもない家族内の、不可能殺人ものかと思って期待したのだが、いつしか主人公の自分探しに変わり、どんどん意外な方向に流されていく。これを面白く感じるかどうかで、本作の評価は大きく変わるだろう。そして私の感想は、ダメ。作者に都合のよい設定が後から出て、説明不足の登場人物が都合よく出てきて、話が転がっていくというのがどうも好きになれない。主人公が「理解」する展開が説得力に乏しく、説明が不足している。衒学的な内容や犯罪論などをつぎ込み、作者なりの世界観が作られているが、大きく広がったはずの風呂敷があまりにも小さかったという結末は非常に残念である。
文章は巧い。読者を引きずり込むだけの力がある。また、伏線の張り方も巧い。何気なく飛ばしていたところにヒントが隠されていたところには、感心した。登場人物もよく描けている。タイトルはどう読めばよいのか今でもわからないが、小説にあっている。結局この小説の評価は、この作者の世界観が受け入れられるかどうかにかかっていそうだ。私は説明不足、描写不足に写ったが、好きな人は好きだろう。
選評では、有栖川有栖が「平成の『ドグラ・マグラ』だ」と絶賛。同様に今野敏も絶賛している。湊かなえは一番高い評価をしているものの、作品自体はあまり好きでないと言っている。辻村深月は選考結果に納得しているものの、「新しい」ものではないと、評価は低い。池井戸潤は「謎解きは肩透かし」「これが周到に準備された小説といえるか」と評価は低い。強く推した二人とは、有栖川と今野のようだ。賛否両論が多いのは、売れる可能性があるということでもあるのだが、残念ながら「平成の『ドグラ・マグラ』」という評価は持ち上げすぎ。まあ、今までの乱歩賞にはない作品であることに間違いはない。これで説明が十分になされていればと思うと、残念でならない。