プロレスという生き方 - 平成のリングの主役たち (中公新書ラクレ)
- 作者: 三田佐代子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/05/07
- メディア: 新書
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2016年5月、書き下ろし刊行。
作者は元々はテレビ静岡のアナウンサー。東京に戻り古館プロジェクトに入社した。1996年、24時間プロレス・格闘技専門チャンネル「サムライTV」が衛星放送のパーフェクTV(現スカパー!)で始まると同時にサムライTVのニュースキャスターとなっ。いわば「プロレス女子」の元祖ともいえる人物。以後20年、キャスターとして携わっている。
まさに待ち望んだ一冊と言えるだろう。サムライTVのキャスターとして、そして新日本プロレスのようなメジャーから、大日本プロレスやDDTのようなインディー、それに専門誌ですら取り上げられないような弱小インディーにまで愛情を持って接してきており、ある意味頑固なプロレスファンにも認められてきた三田佐代子である。プロレスラー以上にプロレスラーを愛し、プロレスを知っている彼女の著書が面白くないわけがない。そして本書は予想通りの一冊となった。中央公論新社というまったくプロレスとは縁のない出版社から出されながらも、結構売れているという。
本書に収録されているのは中邑真輔、飯伏幸太、高木三四郎、登坂栄児、丸藤正道、里村明衣子、さくらえみ、和田京平、若手のお仕事(橋本和樹)、棚橋弘至である。そこには作者が20年間接してきたからこそ描けるプロレスの内面がある。単なる人物紹介ではない。インタビューばかりの記事ではない。一個人のプロレスラーを、プロレスの内面と、そして表面に出てきている外面の両方に光を当てながら、プロレスラー個人の魅力と苦悩、そして希望に満ちた内容となっている。
面白いのは、リングの上だけに焦点を当てているわけではないことだ。プロレス団体は会社であることから当然経営が必要であり、プライドと我の強いレスラーが集まる団体をまとめ上げるだけのリーダーシップも必要である。霞を食って生きていけるわけではないから、当然お金の話も重要だ。お金を得るためには、興業に客を呼び込まなければならない。客を呼ぶためには、プロレスそのものも魅力を伝える必要がある。興業にはリングが必要である。プロレスを広めるためには、報道に取り上げてもらわなければならない。プロレスラーはプロレスをするだけではいけない。
本書で取り上げられた人物をみると、単純にプロレスをしているだけの人物は誰も取り上げられていない。中邑は猪木の呪縛に悩み、飯伏はやりたいことと周囲の期待とのギャップに苦悩する。高木三四郎は“ど”が付くほどのインディー団体だったDDTを、年1回両国国技館で満員の客を呼べるまでの団体にまで押し上げた「大社長」である。登坂栄児はプロレスラーではなく、これも解散寸前だった大日本プロレスをデスマッチとストロングの両輪で客を呼べるまでに押し上げた経営側の人物である。里村明衣子は最侠女子プロレスラーかつ仙台女子プロレスの社長として女子プロレスを引っ張っている。さくらえみは我闘姑娘を旗揚げして小学生女子プロレスラーという存在を業界に認めさせ、アイスリボンでは素人への女子プロレスの道をひろげ、さらに我闘雲舞をタイで旗揚げし、アイドルとしても活動している、女子プロレス界の異端児である。和田京平は業界一のレフェリーである。そして棚橋弘至は24時間365日プロレスラー棚橋としてファンに接し、プロレスの魅力を地道に伝えていくことによって、暗黒に沈み込んでいた新日本プロレスのV字回復の立役者となり、プロレスブームを牽引していった。
残念ながら現在地上波で放映されているのは、深夜の新日本プロレスしかない。しかし会場では大勢のファンが押し掛け、熱気にあふれている。プロレス団体がいくつあるのかだれも把握できないぐらいに拡散化しているが、中心部分はより太くなり、今のプロレスブームをどっしりと支えている。そんな平成のプロレスラーたちを、作者は愛している。そして本書は、愛すべきプロレスラーへの応援歌であり、プロレスの魅力を知らない人へ伝えるための伝導書であり、プロレスファンに向けての解説書でもある。ぜひ第二弾に期待したい。