平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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澤地和夫『東京拘置所 死刑囚物語 獄中20年と死刑囚の仲間たち』(彩流社)

東京拘置所 死刑囚物語―獄中20年と死刑囚の仲間たち

東京拘置所 死刑囚物語―獄中20年と死刑囚の仲間たち

作者は元警視庁警部の死刑囚。後藤田正晴元法相による死刑執行の再開を批判し、『週刊アサヒ芸能』1993年4月16日号に詳しく書いた。そして同誌に1993年6月より「死刑囚・澤地和夫 わが遺言」と題して連載した。しかし遺言を書いたくせに、再審請求を行って生き残る。当時の編集長であった秋本一より、その後の生活を書いたらどうかという誘いを2004年3月に受け、5月に執筆した。しかし原稿は連載されなかった。本書はその原型である。それを2005年9月に行われた第一回大道寺幸子基金による「死刑囚の表現展」に応募し、優秀作品に選ばれ、10月8日の「世界死刑廃止デーの特別企画 響かせあおう 死刑廃止の声」の集会で発表され、それがインパクト出版会を通して彩流社の目にとまり、出版となったものである。

澤地和夫が結構頭のよい人物だったのだと思う。しかし自信過剰なところが裏目に出て、多額の借金を抱える羽目になり、しかも警察時代の仲間から金を借りまくっていたことから犯罪に手を染めてしまう。

死刑判決の上告中、後藤田法相が3年ぶりに死刑執行を再開したことに抗議し、自ら上告を取り下げて死刑が確定。もっとも、上告を取り下げた方が執行までの期間が長くなるという狙いがあったことを後に告白している。最もそのようなデータは無いので、見栄っ張りな性格が表に出た結果だけのような気もするが。

死刑囚との接点などは興味深かったが、ほとんどの文章で己が正しいという感覚で書いていることから、読んでいて不快になる部分も多い。朝倉幸治郎元死刑囚のことをゴマすり、佐川和夫元死刑囚のことを小心者と揶揄する点については、もはや呆れるとしか言いようがない。自らの犯した罪について未だに他人事である点については、怒りすら覚える。借金を抱えた原因は自分にあるという肝心なところについては全く触れようともせず。

結局澤地は、自らに自惚れるタイプだったのだろう。自意識過剰ともいえる内容の一冊だが、一応は東京拘置所の状態や死刑囚の生活などについても書かれているので、その点を知りたいという人については、我慢しながら読んだ方がいいよという注釈つきでお勧めする。