平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジョン・フラー『巡礼たちが消えていく』(国書刊行会 文学の冒険シリーズ)

巡礼たちが消えていく (文学の冒険シリーズ)

巡礼たちが消えていく (文学の冒険シリーズ)

中世ウエールズの荒れ果てた島の修道院で、奇跡の井戸を訪れた巡礼たちが次々に姿を消した。調査のため派遣されたヴェーンを待っていたのは、人間の魂の所在を明らかにせんと禁断の研究にいそしむ修道院長の奇怪な情熱と、謎めいた島の人々だった。修道院の秘密の儀式、消えた死体の謎、探索がすすむにつれヴェーンは、聖と俗、生と死の混沌たる迷宮のなかに引き込まれていく……。深さと衝撃度において「薔薇の名前」以上と評された問題作。(粗筋紹介より引用)

1983年発表。ブッカー賞最終候補作。1994年9月、翻訳刊行。



短めの長編というか、ちょっと長い中編というか。どんな病気でも治すという奇跡の井戸を訪れた巡礼たちが行ったまま誰も戻ってこない。法王庁から調査官が派遣される、という設定。しかし、ミステリとして期待してはいけない。修道院や修道士が出てくるところは『薔薇の名前』が思い浮かぶのだが、それとは別物。あくまでファンタジーである。死体が消える謎ばかり追いかけているが、巡礼たちが次々に死ぬ理由の方が不思議なんだが。エキセントリックな修道院長についても、中世だったとしても許されるのかと聞きたい。何とも摩訶不思議な作品。キリスト教に対する知識があれば、もう少し読み方も違ったような気がする。