平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ヘンリー・ウエイド『塩沢地の霧』(国書刊行会 世界探偵小説全集37)

塩沢地の霧  世界探偵小説全集 37

塩沢地の霧 世界探偵小説全集 37

海辺の村ブライド・バイ・ザ・シーで貧しいながら静かな生活を送っていた画家パンセル夫妻は、ロンドンの喧騒を離れて執筆に専念するためにやってきた小説家ファインズと知り合いになる。人気作家のファインズは名うての女たらしとしてもならしていた。単調で平和な村の暮らしに次第に広がる様々な波紋。そしてある深い霧の夜、塩沢地へ姿を消した小説家は、数日後、泥の穴の中で死体となって発見された。北海沿岸の荒涼たる自然を背景に深く静かに進行する悲劇と、警察のリアルな捜査活動を描き、探偵小説の可能性を追求した英国ミステリ界の実力派ウエイドの力作長篇。(粗筋紹介より引用)

1933年、発表。2003年2月、翻訳。



ヘンリー・ウエイドは名前を知っていたけれど、読むのは初めて。中盤過ぎまで事件は全く起こらない。貧しくも平穏な生活を送っていた画家のジョン・パンセルとその妻ヒラリーが、人気小説家ダラス・ファインズと知り合いになり、ファインズがヒラリーに手を出そうとして、ジョンが嫉妬する。ここまで読むと、ただのメロドラマ。丁寧に描かれているけれど、こういうものはあまり好みじゃないので、少し苛々しながら読んでいた。

後半になってやっと事件が起き、小説家が死体で発見され、そこから先は警察の捜査が主体となる。これも丁寧だけど、面白いかと聞かれると好み次第と答えるしかない。解説にもあるとおり「半倒叙」もので、ジョンが本当に犯行を実行したのかどうかという点が曖昧なまま警察の捜査が進むだけで、結末まで進んでも意外性が何もない。なんでこの形式にしたのかわからない。倒叙ものにすると既存の作品と変わらないから、構成を変えてみたのだろうか。

うーん、結局ただのメロドラマでしかなかった。巻末にある小林晉が「ヘンリー・ウエイド補説」の中で本作品の特徴について語っているが、それを読んでもこの作品の面白さは伝わらなかった。作者がこの作品をどう思っているが、どこかに書いていないだろうか。