平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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誉田哲也『アクセス』(新潮文庫)

アクセス (新潮文庫)

アクセス (新潮文庫)

親友の死から立ち直るまもなく、可奈子の携帯が着信した。電源を切っても聞こえる押し殺した笑い声――「おまえが殺した」。毎日はフツーだった。そう、「2mb.net」を知るまでは。誰かを勧誘すればネットも携帯も無料というプロバイダに登録した高校生たちを、奇怪な事件が次々襲う。自殺、失踪、連続殺人……。仮想現実に巣くう「極限の悪意」相手の、壮絶なサバイバルが始まった!(粗筋紹介より引用)

2003年、第4回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞。2004年1月、単行本刊行。2007年1月、文庫化。



警察小説や青春小説など幾つものシリーズものを持つ作者の、ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作品。作者はその前年、『ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華』で第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を受賞している。

高校生たちが主役のバーチャルホラー。ただホラー要素をよく見てみると、恐いと言うよりは少々グロいと言った方が正しいかも知れない。誰かを勧誘すればインターネットも携帯電話も無料、などと誘われると、普通の大人だったら胡散臭いと思うだろうが、高校生だったら騙されても仕方が無いかな、といったところ。しかも友達から誘われたら、断りづらいだろうし。まあ、ありがちな展開から始まり、母娘の関係や援助交際などこれもありがちなネタを使いながらも、読ませるだけのストーリー造りはなかなかのもので、新人賞なら十分受賞に値するだろう。普通の女子高校生である麻月可奈子、カッコイイ女になることを求めつつ援助交際を続ける川原雪乃、手当たり次第に女に手を出す宇野翔矢といった主要登場人物のキャラクターも立っている。残念だったのは、前半で所々で過剰かなという描写があるのに、後半の別世界の描写が少なくてイメージを浮かべるのが難しかったこと。一番大事なところだから、前半を少し削ってでもしっかり書いてほしかったな。

結局スタートはどこだったのだろうとか、設定に首をひねるところはあるが、まあまあ楽しめた。傑作を書けるタイプとは思えないが、読める作品を多く書ける作家だと感じた。後に人気作家となる素養は十分に合ったと思う。