平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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加藤元浩『C.M.B. 森羅博物館の事件目録』第28巻(講談社 マガジンコミックス)

さいころ、悪い人間を絞め殺して食べてしまうキジムナーを見て以来、隣にキジムナーが見張っているため、バカ正直になってしまった会計士の大仲正吾。取引先から粉飾決済を持ちかけられて悩み、気分転換で故郷の沖縄に帰省する。「キジムナー」。

所有者が存在しない空き家に行政代執行が行われて取り壊されることとなったが、中には住みついていたホームレスの病死体があった。その時、森羅は依頼による刀の鑑定を行っていた。「空き家」。
アフリカ、サーダン共和国で2年前、民族主義を掲げるエルメ大佐がクーデターで国を乗っ取った。国をまとめるため、貧困は隣国・ジャンガ共和国のジャンガ人が元凶であると煽りだし、虐殺が繰り広げられた。戦いを止めるには、国連の安全保障理事会に停戦命令を出してもらうこと。しかし常任理事国5か国のうち1か国でも反対意見が出れば、命令は出されない。元アメリカの国務副長官候補だったフリー外交官で、今はジャンガ共和国外務次官のジル・サイモンは和平案をまとめようと策略する。「ホリデー」。
シリーズ28巻目。今回はトリック等よりも不思議と思われる事象を森羅が合理的に解き明かす2編と、戦争の悲惨さと国同士のパワーゲームの不条理を書いた1編が並ぶ。目玉はやはり「ホリデー」。国連という組織、特に常任理事国たちの「国益」というごまかしに焦点を当てた鋭さがわかりやすく描かれている。それにしても「戦後70年たち、今の若者に戦争の悲惨さを伝えることが課題」というニュースに「今の戦争をちゃんと伝えればいいんじゃないの」と呆れる立樹の感想が皮肉すぎる。まさに仰る通り。
帯の「うんちく配合、驚きタップリ」はやめてほしかった。「薀蓄」なんて言葉じゃ計り知れないぐらいの智の集まりだと思う。