- 作者: 森功
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/05/29
- メディア: 文庫
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2004年11月、新潮社より刊行。2007年6月、文庫化。
吉田純子には、人間の弱みを瞬時に嗅ぎわける才能がある。いったん相手の弱みを発見すると、そこを徹底的に責める。そうすれば誰しも脆い。これまでの人生でそれを実感してきた。(文庫版281頁より)
巻末直前で出てくるこの言葉がこの事件を如実に表していると言えよう。金と土地に異常なまで執着を見せる吉田純子はどのような女のか。共犯の3名はなぜ吉田純子に易々と従うようになったのか。本書はこの事件と吉田純子の虚像に迫った一冊である。
吉田純子の吐く嘘は、こうして言葉として見てしまうと誰もがなぜこんな嘘を信じてしまうのだろうと思うほどの内容である。しかし、吉田純子は人の弱みを掴むことには非常に長けている。弱みを突いて相手を絡め取り、思うがままにあやつる姿は、マインドコントロールと同じものである。これもまた、才能の一つなのだろう。
本書は取材を重ね、四人の看護師がなぜ殺人事件まで起こしてしまうかを丁寧に追っている。新聞記事だけではわからない人の奥底が表に抉り出されるのが、ノンフィクションならではの醍醐味だろう。
それにしても、看護師の知識があればこうも簡単に警察をだませてしまうというのは問題だろう。もしIHが警察に駆け込まなかったら、事件の発覚はもっと遅かった。そのとき、誰が犠牲者のラインナップに加わっていたのだろうか。
単行本は一審判決が出るまで、文庫版ではあとがきで控訴審判決について触れられている。その後、吉田純子は死刑判決が確定し、これを書いている2014年現在は再審請求中である。死刑が確定してから、既に4年が過ぎた。いったい彼女は何を思っているのか。何を根拠に再審請求しているのか。未だに生きている彼女を、共犯で生き残っている二人はどう見ているのだろうか。できれば作者には増補版を書いてほしいところである。