平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ホルヘ・ルイス・ボルヘス、アドルフォ・ビオイ=カサーレス『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』(岩波書店)

ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

ラバス=ブエノスアイレス間をノンストップで結ぶ《パンアメリカン急行》。その中でロシア皇女ゆかりのダイヤが盗まれ、ふたりの男が殺された――事件に巻き込まれ、窃盗と殺人の容疑をかけられたひとりの舞台俳優が、273号独房に収監されているイシドロ・パロディのもとに相談にやってくるが、はたして事件の真相は?……「ゴリアドキンの夜」

《あらゆることは偶然に起こり得ないはずです》――執念ぶかく恨みっぽい父親に、自分の人生を設計し尽くされたひとり息子リカルドの数奇な運命……「サンジャコモの計画」

秘密の湖の至聖所から盗まれた護符の宝石を取り戻すべく、雲南から、はるか遠くアルゼンチンに送りこまれた魔術師タイ・アンの秘策は?……「タイ・アンの長期にわたる探索」

ポー、M.P.シール、バロネス・オルツィの伝統を継承しつつ新しく甦らせたボルヘスとビオイ=カサーレスによる、チェスタトン風探偵小説、全6篇。(粗筋紹介より引用)

アルゼンチンで欧米の思想、文学の紹介に努めたコスモポリタン的な雑誌『スル』1942年1月号と3月号に「世界を支える十二宮」「ゴリアドキンの夜」を掲載。同年、スル社から単行本刊行。



ボルヘスとビオイ=カサーレスがH・ブストス・ドメックの名で合作した短編集。スペイン語で書かれた最初の探偵小説ともいわれている。獄中にいるドン・イシドロ・パロディが、面会者から話を聞いて謎を解く安楽椅子探偵物である。ブストスはホルヘスの曾祖父の名前、ドメックはビオイ=カサーレスの曾祖父の名前である。ボルヘスは序言で、盲目という闇の中に閉じ込められた探偵マックス・カラドスにならって、牢に閉じ込められた探偵を思いついたとほのめかしている。

ボルヘスは名前こそ知っているけれど、読んだことは一度も無い。カサーレスについては、名前すら初めて聞いた。文学ファンなら喜ぶのだろうけれど、そちらに興味が無い私にはどうでもいい情報である。どちらも相当のミステリ・ファンらしい。

まず会話文が長すぎ。特に面会者が延々と話し続けて事件の概要を説明するためか、所々で脱線して、一体何を言っているのかわからなくなってしまう。名前が難しくて覚えられないのは私の頭が悪いだけだが、この長すぎる会話には辟易した。会話だらけなので、人物像もさっぱり頭にイメージできない。人物像がわからないから、話の筋を把握するのに苦労する。それに注釈が必要とする固有名詞や表現が多いので、理解するだけでも大変だ。翻訳はもっと大変だっただろう。

安楽椅子探偵が出てきて、依頼者の話を聞いただけで推理するので、ミステリの形式とはなっている。この推理も淡泊すぎて、どこが推理になっているのかよくわからない。チェスタトン風と書かれているのだが、逆説があるようにも見えないので、どこに共通点があるのかさっぱりわからない。所々で出てくる「格言」を指しているのだろうか。イシドロ・パロディの風貌は確かにブラウン神父を彷彿させるものだったが。

多分3、4回は読み返すと面白さがじわじわ湧いてくるのだと思う。しかしせっかちな私は、そこまで我慢ができないのだった。年取ってからもう1回読んだ方がいいかなあ。