- 作者: 阿部智里
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/06/10
- メディア: 文庫
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2012年、第19回松本清張賞受賞。同年6月、単行本刊行。2014年6月、文庫化。
松本清張賞で異世界ファンタジー? しかも受賞者は20歳? 受賞時点では驚きばかりだった作品をようやく読了。作者インタビューで期待値込みみたいな話をしていたけれど、選評は読んでいないが多分そうなんだろうなあと思った。
朝廷で権力争いをする四家の貴族から集められた四人の姫君。春殿の東家・あせび、夏殿の南家・
姉の不都合により急遽選ばれ、名前も初顔合わせの席で若君の義母から与えられるなど、事情も背景も作法も何も知らないあせびを中心に描くことで、読者にも物語世界を理解させる仕掛けにしているのは上手い。
最後に謎解きが待っているところは、やはり松本清張賞と言うべきか。それも、事件関係者を集めて探偵役が一気に解き明かすという、ある意味王道な展開である。それを異世界ファンタジーでやってしまうところに非凡な才能を感じる。問題は、伏線こそ張られているものの、探偵役と一部の関係者のみが知っている内容で事件が解決されてしまい、推理がないところだろうか。
ただ、読者が待っていたのは正統派ラブロマンスだったのではないだろうか。特に単行本の装丁は、それを狙ったファン向けに描かれたとしか思えない。特に、前半の作りと結末にギャップがありすぎる点を、読者はどう評価するだろうか。否定する人が多いのは、間違いないだろう。個人的にも好きになれない結末であるし、探偵役ははっきり言って嫌いだ。アンタ、一体何様、と問い詰めたくなってしまう。ただし、この結末に挑戦した意欲は買いたい。
異世界想像の設定力は素晴らしいと思うが、登場人物の描き分けはまだまだ。もっと人数を減らすことはできたと思う。背景も含め、説明不足なところもある。登場人物の喋り方は違和感が多いので、もっと見直した方がいい。視点が説明も無しにころころ変わるのは読みにくい。色々な意味で問題作だとは思うし、欠点も多いが、続編が気になることも確か。四人の姫君(+あせびの姉)のその後はできたら読んでみたい。
最後に出版社と選考委員へ一言。作者が20歳の女性じゃなかったら、受賞させなかったでしょう、絶対。