平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

マーガレット・P・ブリッジズ『わが愛しのワトスン』(文藝春秋)

わが愛しのワトスン

わが愛しのワトスン

わたしはシャーロック・ホームズとして世間に知られているが、実はルーシーという名前の女である。すでに学究と養蜂に費やされている毎日だが、平凡な生活の倦怠感に囚われた私は、ワトスンが記録し得なくなった最後の事件簿をここに記すことにした。それは1903年12月、ワトスンの3度目の妻が亡くなり、ホームズが住む下宿に戻った時だった。ホームズとワトスンのもとに訪れたのは、ロンドンの女優、コンスタンス・モリアーティといった。そう、あのモリアーティ教授の娘だった。

1992年、第10回サントリーミステリー大賞特別佳作賞受賞。同年9月、刊行。



作者は1957年4月、ニューヨーク生まれ。執筆当時はボストンの広告代理店のエディター。本作が初めての小説らしい。その後は絵本作家になったようで、『いつまでもすきでいてくれる?』という絵本が1999年に翻訳されている。

ホームズが実は女だったという設定はありそうで思いつかない(子孫ならいくらかあったが)。だいたい、身長6フィート(183cm)以上、鷲鼻で角ばった顎の「女性」なんか想像もつかない。いくら部屋が別室だからといって、同居しているワトスンにばれない方が不思議だ。1903年が最後の事件といったら、「最後の挨拶」はどうなるのだ。まあ、ホームズファンでもない私ですら突っ込みどころがいくらでも出てくるのだから、シャーロキアンが見たら怒りだすか呆れるかのどちらかだろう。

ストーリーとしては、ホームズことルーシーがコンスタンスに翻弄されて殺人事件の容疑者としてスコットランド・ヤードのトビアス・グレグスン主任警部(『緋色の研究』から登場("トバイアス"表記)しており、レストレード警部とともに「ましな方」と言われている)に追われ、ワトスンはコンスタンスに惚れてしまい婚約してしまい、しかもホームズとは絶縁してしまうといった話。そしてルーシーは女の姿に戻ってコンスタンスの衣装係として潜入してしまう。

普通のミステリとして見たらそれなりに伏線も張っているし、完成度自体も悪くはないと思うのだが、やっぱり原典があってのストーリーと言わざるを得ないし、その捻じ曲げ方がトンデモ方向に向かっているのはやっぱり問題だろう。発想自体に無理があったとしか言いようがない。どうせならもっと徹底したパロディにしてくれれば、笑うだけで済んだのに。単純な恋愛物語にするのなら、恋心をワトスンの1度目の結婚の時点で気づけよと言いたい。

今までの佳作ではなく特別佳作賞という賞自体もよくわからないし、海外作品はとりあえず一冊でも訳してくれというエージェントからの依頼でもあったのかと思うぐらい、発刊されたのが不思議なく作品。まあ、珍品として読むのなら悪くはないか。

本作品は原題の『My Dear Watson』として2011年12月にMX Publishingから出版されている。