- 作者: 両角長彦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/02/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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日垣の動機がわからない警察は教室のセットを用意し、40人の生徒と犯人役の警察官による再現ドラマを演じることで日垣の記憶を取り戻そうとした。警察は里奈を虐めていたのは藤村で、だから殺害されたと結論付けようとしていた。再現ドラマで藤村役を演じていた冬島康子巡査はそれに反発、警察を辞めて藤村の両親にそのことを話した。さらに両親はそのことをマスコミに話し、事態は大事となった。テレビディレクターの甲田諒介は特集番組を作るため、冬島に接触する。一方、瀬尾中学校がある学校法人「瀬尾学園」理事長であり、瀬尾グループ会長の跡継ぎである瀬尾伸彦は、筆頭秘書である飯沢哲春に事態の収拾を図るよう命令していた。長男である将も同じクラスにいたのだ。
2009年、第13回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。2010年2月、ソフトカバーで刊行。
帯に「斬新な視覚効果を図った実験的小説が誕生!!」とあるから何かと思ったら、頁の下部に描かれた教室の見取り図。生徒を番号で振り、それぞれの生徒や犯人の動きを矢印で記すことにより、事件の状況が視覚的にわかるようになっている。しかも証言の追加や変更によって動きが変わる度に見取り図が登場し、トータルでは合計93枚になる。四十人の生徒の名前を出されたって覚えきれないので、数字で降ってくれたのは大変助かった。まあ、ここで出す必要があるのだろうかというところもあったけれど、どうせやるなら徹底した方がいい。ただ、記号にした効果は最後によくわかったけれど、見取り図の方はわかりやすい以外の効果が得られていないのは作者としては無念かも。やっぱり事件の再現をするのなら、再現から矛盾点が浮かび上がってくる構造にしてほしかった。ただそれをすると本格ミステリになってしまうのか。それは作者の望む方向じゃないか。
犯人こそすぐに捕まったが、肝心の「なぜ」という部分が見えてこない。それを探るうちに事件の構図が二転三転する。動機の背景として出てくるのが精神的虐待というのはありきたりかなと思っていたら、そこから先はとんでもない方向へ向かっていたのが少々驚いた。警察の買収まで話に出てきた時は本当にびっくり。ただ、いくら話をスピーディーにするためとはいえ、ドキュメンタリー番組のディレクターに警察が捜査内容をぺらぺら喋ったりするのは無理があるなと思うし、何よりも番宣までしているドキュメンタリー番組の納品が当日というのは、少々やり過ぎじゃないか。
真の黒幕も含め、明かされない部分も多い(○○って何を指しているのかいまだにわからない)し、はっきり言って結末はがっくり来るものだったけれど、「緑の鹿」を絡めた追い込みは突っ込みどころ満載なれど見事と言いたくなるような迫力だった。何とも形容し難い作品だが、綾辻が絶賛するのもわかるような気がする。どうでもいいけれど、個人的には高橋が好きだな。
ちなみにラガドとは、『ガリバー旅行記』に出てくる都市の名前。何百人という科学者たち研究をしているのだが、全てが空理空論で、具体的な成果はなにひとつあがらないまま、膨大な研究費だけが、無駄に費やされているという。