悪魔黙示録「新青年」一九三八―探偵小説暗黒の時代へ (光文社文庫)
- 作者: ミステリー文学資料館
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2011/08/10
- メディア: 文庫
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2011年8月刊行。収録作品は以下。
・城昌幸「猟奇商人」
・渡辺啓助「薔薇悪魔の話」
・大阪圭吉「唄わぬ時計」
・妹尾アキ夫「オースチンを襲う」(随筆)
・井上良夫「懐かしい人々」(評論)
・大下宇陀児「悪魔黙示録について」(随筆)
・赤沼三郎「悪魔黙示録」
・横溝正史「一週間」
・木々高太郎「永遠の女囚」
・蘭郁二郎「蝶と処方箋」
新刊で買ったのだが、なぜ買ったのかが記憶にない。多分赤沼三郎に興味があったからだと思ったのだが、なぜこの名前を覚えていたのだろう、と解説を読むと、鮎川哲也『幻の探偵作家を求めて』(晶文社)に名前が載っていたことが書いてあり、ああ、そうだった、それで興味を持ったんだと思い出した次第。たった2年前のことすら忘れている自分に脱帽(違う)。
1938年というセレクトには興味深いものを感じていたのだが、戦争の影を感じさせたのは「蝶と処方箋」ぐらい(結末に使われているものも他にある)。標題や紹介文で煽るほど、「探偵小説暗黒時代」という雰囲気は感じられない。退廃的なムードが漂っている気がするのは間違いないが。探偵小説暗黒時代を検討するのならば、翌年分のアンソロジーを編んで比較してほしいところなのだが、今のところそのような動きが無いのは残念。防諜小説や時代小説が中心になるからだろうか。
さて、注目作であり、九大の先輩だという大下宇陀児の推薦文の後に収録されている短めの長編『悪魔黙示録』だが、評価となると微妙。元々500枚はあったという内容を、宇陀児の勧めによって約半分に縮めたとのこと。そのせいか、展開は非常にスピーディー。特に主人公が新聞記者ということもあってか、動きが早い、早い。早すぎて落ち着きがないぐらい。じっくり考えたりする暇も無く舞台が動くものだから、連続殺人のサスペンスすら感じられないぐらい。やっぱり削りすぎじゃないのかねえ。新聞記者が捜査陣に平気で加わっているのは目をつぶろう。トリックもあるし、フーダニットとして悪くはない作品だが、印象に残る作品ではない。埋もれるのも仕方が無いところかも。
この手のアンソロジーらしく、珍し目の作品がセレクトされているのは嬉しいところ。特に「蝶と処方箋」は埋もれているのが勿体ないくらい。これはおススメである。
できればこれからも珍し目のアンソロジーを編んでほしい。