平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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W・H・ホジスン『夜の声』(創元推理文庫)

夜の声 (創元推理文庫 (536‐1))

夜の声 (創元推理文庫 (536‐1))

若くて市船員生活を送った二十世紀怪奇小説の鬼才W・H・ホジスンは、異界への憧憬と恐怖を大海原に求めた。本書は、闇の海から聞こえてくる奇妙な声が、とある島の怪異を語る傑作「夜の声」をはじめ、巨大な口と触手を持つ海の魔物が襲いくる「熱帯の恐怖」、死の海サルガッソーに入りこんだ船を待ち受ける、海藻の下に潜む恐怖を描いた「グレイケン号の発見」のほか、海に浮かぶ石の船やカビに覆われた廃船にまつわる海洋奇譚全七編に、<カーナッキ>シリーズの先駆をなす「水槽の恐怖」を併録した。(粗筋紹介より引用)

日本オリジナルの短編集。1985年8月刊行。



ジョージが乗っていた小さな船に、年寄りの男がボートで近づいてきた。光を怖がる彼は、船の主であるウィルから食料を貰い、立ち去った。再び現れた彼は、自分と婚約者に降りかかった出来事を話し始める。6か月前に遭遇した沈没と、二人だけ辿り着くことができた島での出来事を。「夜の声」。映画『マタンゴ』の原作となった。

航海中に襲ってきたのは、巨大な海蛇。トムプソンは甲板室に逃げることができたが、他の船員は次々に襲われた。「熱帯の恐怖」。

凪で二晩停止していた船の見習い水夫が廃船を見つけた。そこへ別の船がやってきて、銃撃戦が始まった。翌日、船の一行は廃船へ調査に出向いたが、廃船はネズミの巣窟だった。慌てて逃げる彼らに、ネズミが襲いかかる。「廃船の謎」。

グレイケン号の消息がわからなくなって1年。乗っていた恋人が行方不明となり、気落ちしていたバーロウの気分転換をさせようと、主人公は彼を航海に誘うが、バーロウは乗組員とともに船を乗っ取る。バーロウは主人公達を監禁し、恋人を捜しにサルガッソー海へ向かった。「グレイケン号の発見」。

航海中のデュプレイとジェンセンが聞いたのは、小川が山腹を流れ下るような音と悪臭、謎の灯りだった。船長達はボートに乗り、調査に繰り出す。そこで見つけたのは、石の船だった。「石の船」。

老船医が語り出したのは、若かりし頃の話。航海中に見つけた廃船へボートで近づいて乗り込むと、その廃船は薄汚れた白いカビの巨塊だった。船長は更に探索を続けるが、カビが彼らに襲いかかった。「カビの船」。

キャビン・ボーイで甲板員の少年ピビーは、ジャット船長達とボートで島に乗り込む。その島は、原住民から「悪魔の島」と呼ばれ、悪魔を崇拝する巫女達が多く住んでいた。船長は、ウドの巫女と呼ぶ彼女たちが取ってくる真珠を狙っていた。少年冒険物と言ってよい「ウドの島」。

水の供給口である巨大な水槽で、老人と警官が続けて絞め殺された。老人が盗られた時計と財布を持っていた水槽管理人が逮捕され、絞首刑が言い渡された。しかしトレイトン医師は、彼は無実だと叫ぶのだった。「水槽の恐怖」。



1995年の復刊フェアで購入した一冊。本棚の奥から見つけてきたが、ブックカバーが、今はなき「深夜プラス1」だよ。とりあえず買って、そのまま放置していたんだろうなあ、と我ながら呆れた。「あのH・P・ラヴクラフトが多大な影響を受けた鬼才ホジスン」って書いてあったから買ったのだと思うけれど、そもそもラヴクラフト自体読んだことがないのに、なぜ買ったのだろう。同時に出ていた『鎧なき騎士』もあったから、多分フェアの中で読んだことがない本を適当に選んで買ったのだろうなあ。

船乗り生活を8年間送ったというホジスンならではの、海洋恐怖物。一編一編は短いが、まとめて読むと、現在の海洋物の原型のようなアイディアに溢れている。少ない文章から溢れてくる恐怖というか。現代読者が読むと物足りなさを覚えるかも知れないし、よくあるパターンじゃないか、と思う人がいるかもしれないが、これが1905年から1913年に発表された作品であることを知れば、逆にそのアイディアに感心するだろう。

巻末の長谷川晋一による「ホジスンの生涯」も、コンパクトにまとめられているがなかなか面白い。ホジスンという作者の波瀾万丈の人生が描かれている。