平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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藤子・F・不二雄『初期SF作品』(小学館 藤子・F・不二雄大全集)

初期SF作品 (藤子・F・不二雄大全集 第3期)

初期SF作品 (藤子・F・不二雄大全集 第3期)

藤子・F・不二雄大全集第3期第12回配本の一冊。1953〜1959年の上京前からトキワ荘時代に描かれたSF作品、「海底人間メバル」「暴風の奇術」「幽霊ロケット」「白魔洞の怪人」「宇宙冒険児」「恐怖のウラン島」「あのロボットをうて」「トピちゃん」「宇宙鉱脈」「ぼくは…うしろにつけた」「さてほんとうに穴をでるには!?…」「ある日本人留学生からのローマ便り」「星の子カロル」「ふしぎなほしのぼうけん」を収録。「恐怖のウラン島」「星の子カロル」は藤子Aとの合作。

全集と言えばやはり単行本未収録作品を読めることが大きな楽しみの一つなのだが、特に本巻は目に触れることがほとんどできない初期作品を収録したレア巻。「海底人間メバル」「ある日本人留学生からのローマ便り」は『まんが道』で読めるとはいえ、やはり雑誌掲載バージョンを読みたいのはファンの性。掲載作品には、当時の流行ともいえる別冊付録作品も多く、ページ数が多くて読み応えのある作品がそろっている。後に一世を風靡したギャグ作品とは異なるSF冒険作品もまた、藤子Fのレパートリーの一つであることを気づかされる作品群である。「四万年漂流」「旋風都市」あたりもSF作品だと思うのだが、収録されなかったのは残念。
解説は二階堂黎人手塚治虫蒐集家としてはなかなかの人だと思うが、解説を書かせるとどこかピントが外れている人であり、作品や作者に対する愛情が別の方向に向いてしまっている気がして仕方がない人である。本作品でも「ユーモア・マンガの王様」という聞き慣れない言葉を使うのもどうかと思うし、当時の雑誌事情や掲載作品について触れていていきなり「ストーリー・マンガの面白さは<マンガの神様>手塚治虫に教えてもらったのであり、ユーモア・マンガの楽しさは<ユーモア・マンガの神様>藤子不二雄に教えてもらったのだった」と書かれても何のことやらと思ってしまう。書誌情報や解説、自己体験談があっちこっちに飛ぶ脈絡のなさはどうにかならないものか。

嬉しいニュースと言えば第4期刊行が決定したこと。1960年代までの初期作品がほとんどであり、営業戦略上から刊行されないと思い込んでいたいので、嬉しい誤算である。金銭的には悲鳴を上げているが(苦笑)。発売されるオリジナル本棚の空きスペースを見ると、7〜8冊くらいかな、刊行されるのは。売れ行きを考えると、完全受注生産あたりに落ち着きそうな気もするのだが。それにしても、久米みのる原作作品がほとんど残されていたのはなぜなんだろう。『きえる快速車』が藤子不二雄ランドで出版されているから、原作者サイドが渋っていたとも思えないのだが。