平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

ジョン・グリシャム『法律事務所』(新潮社)

法律事務所

法律事務所

ハーバード大学ロースクールをトップクラスで卒業した、苦学生のミッチ・マクディーア。ウォール街の名門法律事務所をはじめ、数え切れない就職勧誘書が送られてきたが、ミッチが選んだのはメンフィスにある中堅の「ベンディニ・ランバート&ロック法律事務所」であった。そこは40人程度が働く程度の小さな規模であったが、全米でも最高級の初任給を与えてくれ、さらにBMWや超低金利住宅ローンまで貸与してくれるという、好待遇の法律事務所であった。税務部門に配属されたミッチは、裕福な依頼人の節税策や証券関係に関わる過酷な仕事をアソシエイトとして入社当初から続け、それに見合うだけの多額の給料を与えられた。家へ戻る時間が少なく、学生時代に結婚した妻アビーとの仲が冷えつつあるのは問題だったが、司法試験にも合格し、数年後のパートナーを目指してミッチは非常に満足していた。

しかしそんなミッチへ、FBIのウェイン・タランスが接触してくる。その事務所では、過去に5人の弁護士が不慮の事故死を遂げていた。そしてミッチは真実を知らされる。この事務所は、マフィアであるシカゴの犯罪組織、モロルト・ファミリーの脱税やマネーローンダリングを請け負うのが本当の仕事だったのだ。エージェントはミッチに捜査協力を要請される。ミッチはFBIを選択するのか、現在の高収入を得られる犯罪者への荷担を選択するのか。

1991年3月、出版と同時にベストセラーとなり、グリシャムを一躍人気作家に押し上げることとなった作品。年間41週にわたってベストセラーにランクインし、トム・クルーズ主演で映画化もされた。1992年7月、翻訳。



昔購入したまま、ダンボールの奥底に仕舞ってあった一冊。ベストセラーになっていたことは知っていたし、評判も聞いていたけれど、そうなるといつか読めばいいやと思ってしまう悪い癖が出てきて、今頃読むような結果となってしまった。

 こうして読んでみると、弁護士を主人公としていながら法廷シーンは全くなく、マフィアとFBIの双方と対峙する若き弁護士とその妻たちの活躍を書いたサスペンスであり、その息詰まる展開とミッチの頭脳に感心してしまった。なるほど、これだったら全世界でベストセラーになるわけだ。登場人物それぞれの描写も悪くなく、双方の思惑も過不足なく描かれており、互いに相手の手を読み合うストーリー構成もお見事。最後の逃走劇に関しては、追う方にもっと巧い手配があったんじゃないかと思うのだ、些細な話だろう。

ただ読み終わると、後に残るものはほとんどない(ベストセラーってそんなものも多いが)。面白かったで終わり、1ヶ月も経つと忘れてしまうような作品かも知れない。

こういう作品を読むと、アメリカの弁護士に正義も何もあったもんじゃないと思ってしまいたくなるが、日本でもそれはそんなに変わらないのかも。まあ、収入は段違いだろうが。