- 作者: 今野敏
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/03
- メディア: 単行本
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『小説新潮』2008年6月〜10月号連載。2009年3月、単行本化。連載時タイトル『乱雲―隠蔽捜査3』。
『隠蔽捜査』シリーズ2作でようやく名実ともに名前が広がった、作者のシリーズ第3作。このシリーズでは初の連載、ということでいいのかな。
事件としては、訪日するアメリカ大統領を狙うテロという大事件なのだが、実際の規模としてはスケールが小さすぎて、迫力に欠けた。むしろ本作品では、何事も原理原則で行動してきたあの竜崎が恋をして苦しむという心情の方に、大きな焦点を向けるべきだろう。もっとも、10代でとっくの昔に迎えているべき感情を、50歳を過ぎたおっさんがいい年こいて何をしているんだ、という印象しか受けないのだが。
苦しんでいる竜崎の迷いを晴らすのは禅の公案。事件を解決するきっかけとなるのは、単独で別の事件を追いかけていたはずの戸崎。一つ目標が見つかれば回り出す優秀な官僚組織。この辺の筋の組み立ては、前作『果断』と変わらない。意外な事件の真相というものがないため、『果断』ほどの面白さはない。それにシリーズものの特徴とはいえ、『果断』は第1作『隠蔽捜査』を読んでいなくても十分楽しむことができる作りだったが、本作では、すでに左遷されたはずなのに上からの評価は異様に高い竜崎の実力をすでに皆知っていて、一部は心酔しているという前提条件があるため、そこを知らないと竜崎という主人公像に首をひねるかもしれない。本作は、シリーズを読んでいる人という前提があって、初めて面白く読めるタイプの小説である。
まあ、過去2作が面白かったからか、自分は十分に楽しむことができたけれどね。キャラクターに頼りすぎるのではなく、事件の謎そのものでも面白いものを作ってほしい。そう思っているだけのことで。