- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/09/09
- メディア: ハードカバー
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お客を守る山岸と、お客を疑う新田はしばしば対立したが、様々な宿泊客が起こす騒動を通じ、いつしか二人は互いの立場を認めあう。新田は、守秘義務があるはずの事件の手掛かりや背景を山岸に教え、山岸は新田に協力しようとする。
新田は山岸との会話から事件の謎を解くヒントを得、第一の事件でコンビを組んでいた品川警察署の能勢に協力を依頼する。能勢の捜査から得られたものは、新田の想像通りの内容であったが、すでに捜査は考えていたよりも先の方へ進んでいた。捜査の前線に立てず、焦りと苛立ちから山岸にまで当たる新田。そして手掛かりから推察された犯行日は刻々と近づいていた。
『小説すばる』2008年12月号〜2010年9月号連載。東野圭吾作家生活25周年特別刊行第3弾。
『麒麟の翼』『真夏の方程式』に続く特別刊行第3弾。加賀、湯川と続き、次は集英社だから『白夜光』『幻夜』に続く作品が来てくれたら良かったのにと思う私は間違っているだろうか。
本作は犯人による謎のメッセージが残されるという連続殺人事件を扱いながら、舞台のほとんどは「コルテシア東京」内のみ、という凝った設定になっている。舞台が限定されると動きが少なくなり、どうしても退屈になりがち。そこは様々な客の表と裏をドラマティックに書き、新田と山岸の感情を交差させることで回避しているのは、さすがの技といえよう。まあ、過去には石ノ森章太郎の『HOTEL』もあるし、ホテルの仲を舞台にするというのはそれほど目新しい設定というわけでもないのだが。ただ、客の「仮面」というキーワードを生かし、仮面をはがす刑事と仮面を守るフロントクラークという立場の対比を浮かび上がらせる展開は面白かった。
正直いって、どのように結末を持っていくのだろうと思っていたのだが、意外な展開を用意していたのは見事。こればかりは想像もつかなかった。舞台設定、登場人物だけでなく、謎そのものも面白いものを持ってこられては敵わない。読み終わって、素直に脱帽した。
今年度発行された三冊の中で、一番面白かった。いや、過去の東野作品の中でも、かなり上位の方に来るんじゃないだろうか。ただ、この刑事のシリーズ化は勘弁してほしいと思うけれど。新田を主人公として、この作品以上の面白い作品が書けるとは思えない。