平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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長谷部史親『欧米推理小説翻訳史』(双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作全集第72巻)

推理小説もまた、明治維新以来の、西洋文化の急激な移入のなかで日本で紹介されていった。そこには当然ながら、翻訳という手段が介在する。アガサ・クリスティーを最初に、S・S・ヴァン・ダイン、F・W・クロフツモーリス・ルブランディクスン・カー、G・K・チェスタトンといった作家の受容の歴史を、丹念に追っていく。(粗筋紹介より引用)

 第46回(1993年)日本推理作家協会賞(評論その他の部門)受賞作。



各作家がどのように日本で翻訳されていったのか。その歴史を丹念に追った一冊。クリスティーヴァン・ダインなどの有名作家から、フレッチャーやウォーレスのように戦前のみ人気があった作家まで、幅広い作家が収録されている。なんといってもこの作品のすごいところは、それぞれ実物をもとに書いているところ。戦前の探偵小説雑誌を探すだけでも一苦労だと思うし、すべての記録がそろっているわけでもない時代の雑誌や単行本がさらりと出てくるところは、ミステリファンを泣かしてくれる。本だけではなく、映画についても触れられているのもうれしいところだ。労作という言葉がぴったりくる一冊。

セイヤーズ、クイーン、ドイル、ハメット、シムノンなどはいずれ執筆する予定とあとがきで書かれているが、残念ながらこれらは未だに本となっていない。早く続編、もしくは改訂版を読んでみたいものである。

双葉文庫からの日本推理作家協会賞受賞作全集は、日本ミステリの流れを知るという点でも重要なシリーズであり、毎年6月に刊行されるのを楽しみにしているのだが、なぜか今年は発売されなかった。ねえ、なぜ?