- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/03/03
- メディア: ハードカバー
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東野圭吾作家生活25周年特別刊行第1弾。2011年3月書き下ろし。
『新参者』に続く加賀恭一郎日本橋署編。一見簡単に思える事件の真相を、地道で丹念な足による捜査で少しずつ求めていくもの。全く関係がないと思えるようなエピソードが実はここにつながっていた、という構成と展開はさすがと思えるものがある。福島県から夢を求めて東京へ出てきたカップル、八島冬樹と中原香織のその後と心情の描き方は、ややお涙頂戴のところはあるものの巧い。
ただ、書き下ろしの割には作り込みが甘いと感じた。救われないキャラクターがいるのはまだしも、放り出されたまま終わってしまうキャラクターがいるのは残念。派遣切りや労災隠しの問題は、動機としてとりあえず付け足してみましたよ、という程度の内容でしかないし、被害者遺族が救われないままの状態で終わるのは、加賀シリーズとしてはやはり手落ちと思える。最後に親子愛が出てくるのも、それまでの展開から見るととってつけたような結末になっている。タイトルの付け方も今一つだし、そもそも日本橋の描写が知っている人向けにしかなっていないのも残念であった。
看護士の登紀子とか、松宮などが出てくるエピソードは、一応事件の伏線を張っているつもりなのだろうけれど、やはりただのファンサービスにしか思えない。どうやら『赤い指』に出てくるキャラクターらしいけれど、その作品を読んでいない自分には、よくわからないまま登場して退場していったように感じた。結局本作品は、25周年を記念した、ファン向けのものでしかない。