平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐々木丸美『水に描かれた館』(講談社文庫)

水に描かれた館 (講談社文庫)

水に描かれた館 (講談社文庫)

三人のいとこたちの連続殺人の謎を秘めた北の断崖の館は、朝から春の嵐に翻弄されていた。その日、財産目録作成のため四人の鑑定家が派遣されてくるはずだった。だが、現われたのは五人。"招かれざる客"は誰か? その目的は? やがて鳴り響く大時計の三点鐘とともに忍び寄る凶々しい殺意の影。人間心理の神秘を描くサイコ・ミステリー長編。(粗筋紹介より引用)

1978年9月、講談社より刊行。1988年9月、文庫化。



『崖の館』に続く「館シリーズ」第2作。前作の続きという形になっているため、前作を読んでいないとわからない部分が多い点には注意。

前作で生き残った登場人物に加え、今回は財産目録作成のための鑑定家たちが館の仮の住人として加わる。館の住人が現実感に乏しい透明さを持ち合わせているのに対し、鑑定家たちは興味を持つ分野以外には何も意識を向けようとしない人物として描かれている。どちらにしても、リアルとはかけ離れた位置にある人物たちであり、それらを理解しないと小説の世界観を把握することができない。

毎度の事ながら、登場人物の行動原理や心理が理解できないため、なんでこいつらはこんなことを考えているのだろう、こんな行動を取るのだろう、と首をひねりながら読んでしまう。いつもの叙情溢れる文章に加え、哲学的、心理学的要素も加わるからなおさらだ。理解しようがないと言ってしまえばそれまでなんだが、それだけじゃないよなあ、とは思ってしまう作品でもある。

本作品でも主人公である涼子の視点で物語は進むが、今回は涼子自身の恋愛も重要な要素となっている。ここまで独善的になれるものなのか、と思いながら読んでしまったが、これは少女と大人の間で揺れる恋情なのか、それとも単に佐々木ワールドの女性はみんなこうなのか。実は後者ではないかと思ったりする。

なんだかんだ文句ばかり言いつつも、手元に本があるため読んでしまう。さて、三作目も手に取ることとしますか。