- 作者: 東川篤哉
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/09/02
- メディア: 単行本
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アパートの自室で殺されていたのは、なぜかブーツを履いたままの女性。動機がありそうな元恋人には確実なアリバイがあった。「殺人現場では靴をお脱ぎください」。
動物病院の院長が青酸カリを飲んで死亡した。毒は差し入れられたワインボトルに入っていた。院長の再婚に反対するべく、親族一同が病院に集まっていた夜のことである。自殺か、他殺か。「殺しのワインはいかがでしょう」。
老舗ホテル名誉会長の息子が結婚しようと半月前から連れてきていた女性が、屋敷内の薔薇園で殺害されていた。死体には移動された跡があった。「綺麗な薔薇には殺意がございます」。
大学の後輩の結婚披露宴に招待された麗子は、影山とともに彼女の屋敷へ。ところが当の彼女が部屋で刺されて重傷を負った。しかし部屋は密室状態だった。「花嫁は密室の中でございます」。
マンションの部屋で殺された全裸の男性。隣室でぎっくり腰になった男性がエレベータで被害者とすれ違っており、その際一緒にいた女性が犯人と思われた。容疑者は二人。「二股にはお気をつけください」。
消費者金融のワンマン女性社長が自宅で殴られて殺された。ダイイング・メッセージの痕跡らしきものが残されていた。家族の誰かが犯人と思われたのだが。「死者からの伝言をどうぞ」。
『文芸ポスト』2007年冬号掲載後、『きらら』2009年2月号〜8月号に連載された4編に、書き下ろし2編を追加して収録した短編集。2010年発行。
光文社などでユーモア本格ミステリを書き続けている東川篤哉の新シリーズ。お嬢様刑事と毒舌執事のやり取りが実に面白い。有能な執事でありながら、平気で主の悪口を言うギャップが笑える。まあ続けて読むと飽きが来そうなワンパターンでもあるのだが、その辺は舞台を変えたりすることで処理されているのはなかなかの捌き方か。とはいえ、次も同じパターンだったら間違いなく飽きるだろうな。
謎と手がかりが提示され、推理によって解決されるという本格ミステリのパターンは頑なに守られている。実際のところ、提示された手掛かりには他愛のないものもあるのだが、そこは舞台の脚色によってうまくカモフラージュされている。本当にうまい作家になりましたね、この人。ついでに書くと、「殺人現場では靴をお脱ぎください」の靴の謎についてなんかは、「うん、やるやる」って思ってしまったな。
意外なヒットとなったようだが、過去の作品傾向と比べてそれほど違いがあるとは思えない。強いて言うなら、お嬢様と執事という設定だろうか。何か知らないが、必要以上にこの手の登場人物が受ける時代になっているのではないだろうか。