平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高野和明『6時間後に君は死ぬ』(講談社文庫)

6時間後に君は死ぬ (講談社文庫)

6時間後に君は死ぬ (講談社文庫)

6時間後に死ぬと予告された原田美緒。予告した山葉圭史は、未来を予言するビジョンが時々見えるという。その不思議な力を目の当たりにした美緒は、もしかしたらストーカーの沼田が犯人ではないかと疑う。美緒は圭史とともに沼田を捜すが。「6時間後に君は死ぬ」。

29歳、プロットライターの朝岡未来は、昔遊んだ神社の裏の防空壕へ行く。そこで偶然で会うことになったのは、20年前の自分だった。未来には20年前、1日だけ行方不明になり、しかもその間の記憶が全くないという過去があった。「時の魔法使い」。

飽きっぽくてすぐに彼氏を変えてしまう未亜は、中学の時から6年続いていた彼氏いる歴が途絶えてしまった。親友の裕美子は、よく当たるという大学院生の占い師に相談することを提案する。占い師と噂される山葉圭史は、未亜に向かって「今度の水曜日だけは、恋をしてはいけない」と告げるのであった。「恋をしてはいけない日」。

ルームメイトの亜紗香とともにプロのダンサーを目指している美帆。しかしオーディションに受からない毎日は、少しずつ彼女の夢を削っていく。一方、菅原小夜子という作家が作った「ドールハウスミュージアム」は、今月末で閉鎖することが決まっていた。創設者である小夜子は20年前に亡くなる前、甥である館長に閉館する日を告げていた。しかもこの建物は、最後の日にやってくるゲストのために創られたという。「ドールハウスのダンサー」。

大学院の博士課程に進んだ山葉圭史は、自分が招待されている知人の結婚式場で、自分が死ぬというビジョンを見た。その結婚式場で出会ったのは、5年前に会った原田美緒であった。美緒はあれから結婚式場のアテンダントとして働いていた。圭史が見た、パーティ会場で自分が焼け死ぬというビジョンのことを聞き、美緒はそれを回避すべく圭史と行動をともにする。「3時間後に僕は死ぬ」。

乱歩賞受賞第一作短編「6時間後に君は死ぬ」を初めとする、連作短編集。2007年5月刊行単行本の文庫化。



時々未来を予言するビジョンを見てしまうという山葉圭介を狂言回しに据えた連作短編集。サスペンス、ファンタジー、恋愛小説、青春小説と様々なジャンルを書き分けている。過去が見えるという人物を配しながら、全く違う作風の作品を書くという点については感心するが、それが面白かったかどうかといわれると微妙。未来が見えるという人物を出す必然性については、「時の魔法使い」を除けば一応あるわけなのだが、別設定でもよかったんじゃない、などと思ってしまう。しかも「時の魔法使い」では未来と圭史が付き合っているというし。

ただ、最初と最後の作品はなかなかの仕上がり。のちにテレビドラマにもなっているが、いかにもドラマ風の盛り上がりをうまく盛り込んだサスペンスとして成功している。「3時間後に僕は死ぬ」についてはちょっとやりすぎという気もするが、脅迫状の意外な謎も含め、面白い出来である。

久しぶりに高野和明を読んだけれど、面白いわ。この人、もっと売れてもいいと思うんだけれどね。