平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伊岡瞬『いつか、虹の向こうへ』(角川文庫)

いつか、虹の向こうへ (角川文庫)

いつか、虹の向こうへ (角川文庫)

尾木遼平、46歳、元刑事。ある事件がきっかけで職も妻も失ってしまった彼は、売りに出している家で、3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。そんな彼のところに、家出中の少女が新たな居候として転がり込んできた。彼女は、皆を和ます陽気さと厄介ごとを併せて持ち込んでくれたのだった……。優しくも悲しき負け犬たちが起こす、ひとつの奇蹟。第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞、W受賞作。(粗筋紹介より引用)

2005年5月、角川書店より刊行。応募時タイトル『約束』。



うらぶれた元刑事が巻き込まれて事件の真相を追いかけるというのは、割と古くさいハードボイルドの設定なのだが、3人の居候と同居生活を送っているというところがやや目新しい設定か。その3人に触れられたくない過去があり、捜査の途中で少しずつ語られていくところも、物語が単調にならないアクセントの働きを果たしている。尾木が見かけによらず意外と頭の回転が速いところをみせるところなども、定番とはいえ面白い。暴力団との駆け引きをするところも、人情味があるのか義理堅いのか相手を認めているのかわからないが、裏の冷酷な計算も含めて楽しく読める。いかにもテレビドラマっぽい安っぽさがあるのは否定しないが、童話を絡めるエピソードも含め、いかにもといいつつも面白いハードボイルド作品として完成されていることは間違いないだろう。タイトルも、改題後の方がうまく決まっている。できれば石渡とかはもう少し動かしてみてもよかったと思うが。

手堅い作品を書ける人なので、それなりにがんばってほしいとは思う。あとは、定番の世界からいかに抜け出すことができるどうかだな。

なんとなく受賞作は全部読むぞ!方針は継続中。未読本は増えるばかりだけれども、地道にやっていきたい。