平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笹本稜平『挑発 越境捜査2』(双葉社)

越境捜査2 挑発

越境捜査2 挑発

警視庁捜査一課で継続捜査を担当する特別捜査一係に所属する鷺沼知也警部補は、総資産額数千億円というパチンコ・パチスロ業界の雄、飛田不二雄のオフィスを訪ねる。7年前、殺人容疑で拘留されていた玉川警察署の屋上から飛び降り自殺した身元不詳の被疑者が、飛田の従弟である川端久敏であることが偶然判明したからだ。しかも川端には事件当時のアリバイもあったことが判明。殺害された人物は主に基盤などを作る電子部品会社のオーナーだった。飛田は30年近く会っていないと話した。しかし、後から連絡を入れてきた美人秘書の深見亜津子は、鷺沼にこう告げた。「7年前の2月、飛田は川端さんと会っている」と。飛田には様々な黒い疑惑があったが、パチンコ・パチスロ業界と構造的に癒着している警察庁生活安全局から所轄の生活安全課までの組織は、飛田に手を伸ばすことを許さなかった。せっかくのチャンスと、かつて玉川警察署に所属していた三好係長は二課と手を組んで捜査に当たるが、飛田と手を結ぶ上層部は次々と妨害の手を伸ばす。鷺沼は若手刑事の井上や、かつて手を組んだことがある神奈川県警の不良刑事宮野ややくざの福富とともに、巨大な敵に立ち向かう。

『小説推理』2008年8月号〜2009年9月号まで連載された作品を加筆・修正し、2010年2月に刊行。



前作『越境捜査』で痛快な活躍ぶりを見せた鷺沼&井上のコンビが帰ってきた。どちらかといえば正義の熱い心を持っている鷺沼と、ばくち好きで金儲けになることを探し回っているような井上という正反対な性格の二人が、時には互いの欠点を補い、時には自らの長所を生かす形で事件にぶつかっていく。前作でも活躍したやくざの福富、パソコンが得意な若手刑事の井上、上司の三好係長も登場。正義に立ち向かうべく、もしくは金儲けのため、などと動機はそれぞれ異なりながらも、見事なチームワークで巨大な敵に立ち向かう姿は読んでいてスカッとするものがある。本作は前作より単純なようで実はかなり込み入っており、どこに真相があるのかを追い求める点でも十分に楽しめる。飛田、深見などの登場人物もそれぞれ魅力的に描かれいているし、意外な伏線の張り方など構成も巧みな仕上がり。帯にある「事件の謎にグイ、グイ、グイたっぷり読ませる警察小説」という惹句が珍しく的確。警察小説で、また一つ楽しみなシリーズが増えたと言ってよいのではないだろうか。愉快痛快な傑作であり、広く読まれてほしい。

どうでもいい指摘かもしれないが、最後はいくら何でも早すぎ。作者が勘違いしている気もするが、どう頑張ったって、そんなに早い手続きは有り得ない。