平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ミネット・ウォルターズ『女彫刻家』(創元推理文庫)

女彫刻家 (創元推理文庫)

女彫刻家 (創元推理文庫)

オリーヴ・マーティン――六年前、母親と妹を切り刻み、それをまた人間の形に並べて、台所の床に血みどろの抽象画を描いた女。嫌悪と畏怖をこめて彫刻家と呼ばれるこの無期懲役囚について一冊書け、と版元に命じられたライターのロズは、覚悟を決めて取材にかかる。まずはオリーヴとの面会。並はずれた威圧感に震え上がったが、相手は意外にも理性の閃きをのぞかせた。かすかな違和感は、微妙な齟齬の発見をへて、大きな疑問に逢着する……本当にオリーヴがやったのか? 謎解きの興趣に恐怖をひとたらし。その絶妙な匙加減が、内外で絶賛を博した、ミステリの新女王の出世作。MWA最優秀長編賞に輝く、戦慄の第二長編。(粗筋紹介より引用)

1993年発表。1994年、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長編賞受賞。1995年翻訳、単行本として出版された作品の2000年文庫化。



1995年に週刊文春、このミスの両方で海外部門第1位を取っていたので、文庫化と同時に購入していたのだが、読んだのは今頃。まあ、いつものことだ。

「彫刻家」と呼ばれる身長180cm、体重165kgと巨体の女性オリーヴが主人公の1人であり、さらに彼女の犯行は母親と妹を切り刻んで並び替えたというものだから、どちらかといえばサイコものを想像させるのだが、読んでみるとそのようなグロさは感じさせない。とはいえ、ここで書かれている人間心理の恐ろしさは相当なものだが。

ストーリーそのものは思っていたよりストレートなもの。動機不明の残虐な事件を引き起こした奇怪な女性のノンフィクションものを書くようにエージェントのアイリスから要請されたフリーライターのロズことロザリンド・リーが、気の進まないままオリーヴと面会して興味を持ち、調べていくうちに彼女が犯人であるか疑問を持つようになる。さらにオリーヴを取り調べた元警官ハルとのロマンスまで加わる。やや長い作品ながら、読み始めると止まらない面白さである。こんなエピソードいらないだろうと思っていると、実はそれが意外な伏線だったりするのだから、気を抜くことも出来ない。この作品の一番すごいところは、オリーヴという女性の造形と、それを前面に押し出さないことによって内容に深みを与えたところだろうか。

ということで今更ながら読み、今更ながら面白かったなーと言うだけの感想でした。あと、野崎六助の解説ならぬ作者論はいらなかったんじゃないの?