- 作者: 相沢沙呼
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/10/10
- メディア: 単行本
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図書館の本棚一列が全て逆向きに押し込められていた謎を解く「空回りトライアンフ」。
初が忘れたはずのナイフが音楽室の机に刺さっていた。しかも机の表面にはfの文字が三つ掘られていた。しかし音楽室は密室状態だった。「胸中カード・スタッフ」。
間違えて別人の手帳を開いてしまったポチ。そこには、まだ発表されていない英語の成績上位者の点数が。その手帳の落とし主は、よく当たる占いをすることで有名な同級生。さらに自殺した女子高生の幽霊話まで。「あてにならないプレディクタ」。
自殺した女子高生の幽霊が、学校の掲示板に書き込んだ。しかし掲示板に書き込むには、本人のアカウントとパスワードが必要なはず。さらに苦悩する初の物語が語られる「あなたのためのワイルド・カード」。
全4編を収録した連作短編集。2009年、第19回鮎川哲也賞受賞作。
連作短編集というだけであまり読む気はしなかったのだが、帯で山田正紀が「『うる星やつら』のあたるとラムを連想させられた」なんて書いている(選評の言葉だった)ものだから、ちょっとは期待して購入。まあ、読んだ結果は山田正紀に騙された、というところか。SFプロパーの山田だから、『うる星やつら』というタイトルを出しても当然と思ったのだが、全然別物。ええと、この作品のどこであたるとラムが連想できるの? 単に“ボーイ・ミーツ・ガール”な部分を指していうのだったら、大間違いだな。編集者も、もう少し考えて出してほしいものだ。ついでに書けば、これのどこが“ラブコメ”なんだ? コメディ色なんかゼロじゃないか。
まあ、そういう作品自体の評価とは関係のない部分ばかりで不満を書いてみたが、作品そのものはそれほど悪くない、と言ったところ。1つ1つの作品で小さな謎を解き明かしつつ、4つの作品を覆っている謎が最後で解き明かされると同時に、ヒロインの影が拭い去られるという構成はそれなりにできた方だと思う。謎が小粒すぎるのは、作品のテーマから考えれば仕方がないところだろう。
とはいえ、いったいいつの青春恋愛小説なんだよ。今時の小学校高学年の方がもっとませているだろう、とまで言いたくなるぐらい、感覚が古すぎる。主人公の語り方も、一昔前のうじうじする(しかしなぜかヒロインに惚れられる)男の子そのもの。とても自分より年下の人が書いた小説とは思えない。無駄に空回りするところや鬱陶しいところも含めて、『きまぐれオレンジ・ロード』を思い出しちゃったよ。そのくせ、この作品にはいじめの問題など今時の問題を書きながらも現代的なポップさが全く感じられないし。まだこの主人公を使う気があるのなら、性格設定なども含めて考え直した方がいい。
まあ技術があることは認めるので、次はもう少し若さを押し出した無茶な作品を読んでみたいところ。