平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

大沢在昌『氷の森』(講談社文庫)

氷の森 (講談社文庫)

氷の森 (講談社文庫)

私立探偵緒方洸三の敵は、罪の意識を一切感じないで他人の弱味を握り、野望達成へと突き進む特異な犯罪者だった。ヤクザすら自在に操り、平然と殺人を犯しながら姿を見せようとしない“冷血”な男との闘いに、緒方も血だらけになって挑む。「新宿鮫」の原点となる鮮やかなハードボイルド・ミステリー!(粗筋紹介より引用)

1989年4月、講談社より書き下ろしで刊行。1991年、ノベルス化。1992年、文庫化。



「『新宿鮫』の原点になるハードボイルドミステリー」と書いてあるのだが、この惹句はやや疑問。大沢在昌は元々ハードボイルドを書き続けていた作家だし、この作品が特別というほどのことでもない。大沢のことだから、この作品が売れればシリーズ化を考えただろう。

主人公である私立探偵緒方洸三は、どちらかといえば私立探偵像のステロタイプそのものであり、一作読む限りでは構わないがそれほど魅力的と言える人物ではない。ストーリーはテンポこそよいが、姿を見せない人物を追うという展開のわりには軽さが目立つ。暗い過去を背負う人物ばかりが登場し、事件もかなり重いものを背負っているのに、この軽さは非常にマイナス。「特異な犯罪者」がなぜそこまで影響力を持っているのか、全然納得できなかった。恐ろしさも伝わってこない。当時の描写力に問題があったのか、それともあえて読みやすさだけを選んだのか。

娯楽として読むのなら問題ないが、ハードボイルドとしてはもっと深みがほしかったところである。最後は駆け足すぎ。もう少しページを割いてほしかった。

作品とは関係ないが、解説の関口苑生。つまらない大沢論はどうでもいいから、もう少し作品のことをきちんと語れよ。