平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ディーン・R・クーンツ『ウォッチャーズ』上下(文春文庫)

ウォッチャーズ〈上〉 (文春文庫)

ウォッチャーズ〈上〉 (文春文庫)

ウォッチャーズ〈下〉 (文春文庫)

ウォッチャーズ〈下〉 (文春文庫)

森で拾ったその犬には、なにか知性のようなものが、意志に似たものが感じられた。孤独な中年男のトラヴィスは犬に<アインシュタイン>と名を与え、半信半疑の対話を試みる。徐々にわかってくる信じがたい事実。それにしても、犬は何を警戒しているのだろう。繁みの陰に、暗闇の奥に、なにか恐るべき"もの"がひそんでいるのか。(上巻粗筋紹介より引用)

アインシュタイン>が不安げに窓の外をうかがう回数が日ましにふえてくる。あいつが、殺戮と破壊の本能が植えつけられた怪物の<アウトサイダー>が、刻々と近づいているのだ。正反対の使命を組みこまれた二頭の変異種の宿命の対決が迫る。そして、その刻に向かって、孤独な男と女がしっかりと結ばれ、闘う力を得てゆく……。(下巻粗筋紹介より引用)

アメリカ大衆小説界を代表したクーンツによる1987年の作品。1993年翻訳、文庫化。



1980年代後半からいたるところで翻訳されたクーンツブームが一段落したところで出版された作品であり、あらためてクーンツの実力が見直された作品でもある。個人的にはホラーは苦手だったので、この人の作品を読もうとは思わなかったのだが、この作品だけは非常に評判がよかったのでとりあえず購入していたもの。例によって積ん読状態だった一冊、いや二冊か。

ここに書かれているのは、様々な感情で結ばれたいくつかの物語である。固い絆で結ばれることになる男女の恋愛。似た境遇ならではの愛憎。歪みすぎた、一方的な愛情。孤独なもの同士が惹かれあう友情。そして、互いの気持ちが徐々に分かり合う繋がり。トラヴィス・コーネルがアインシュタインと出会ってから幕を開けるこのドラマは、いくつもの関係が少しずつ集約され、そして全てが結びついたときに全ての幕が閉じることとなる。

ある意味できすぎな作り方だが、そのあざといまでの展開が見事ともいえるほどの面白さがある。ただでさえ動物と人間との友情ものに弱い読者が多いのに、さらにこんなホラーサスペンスの要素まで混じってしまえば、面白くないわけがないだろう。もちろん、これだけのものにまとめ上げるだけの腕が必要であり、かつクーンツが持ち合わせていることを聞いていての発言だが。

犬好きにはたまらないだろうな。それを抜きにしても、単純明快に面白い作品。はい、時間を忘れて読みました。